ラインハルトの策略により物資をことごとく接収された星々を、自由惑星同盟軍が次々と占拠していきます。見た目は無血占領の連続で、攻め手側が優勢に見えますが、自由惑星同盟は国家存続にとっても致命的な惨敗への道を突き進んでいました。
そんな中、ホーウッド中将率いる第7艦隊が占領した惑星で、兵士と民衆の間でこんな会話が交わされます。
兵士「君たちは自由だ」
民衆「自由や平等より、先にパンや肉を約束してくれんかね」
自由惑星同盟が帝国の民衆に与えようとしている自由よりも、まずは食料の供給を希望する民衆たち。マズローの欲求5段階説にあるように、生理的欲求が満たされなければ、より上位の欲求は発生しないということだと思います。ここまではラインハルトの読み通りかつ思う壺でした。
しかしながら、ここでホーウッド中将が行った判断は、ともすれば帝国軍の戦略構想を覆す可能性があるほど、英断だったと思われます。それは、民衆に食料を供給するだけでなく、その再生産の手段そのものを提供することでした。「食料を与えるだけではなんの解決にもならない」からです。
任命されたヴァーリモント少尉は、自身のスキルを活かしながら、誠実に任務をこなし、畑を再生させていきます。民衆が自力で食料を生産できるようになれば、より上位の欲求が生まれ、自由や平等の価値を実感できるまでになるかもしれません。そういう意味で、第7艦隊占領下での政策は、理にかなったものだったと思います。もっとも、同盟軍と民衆との蜜月は、ラインハルトによって強引に幕を引かれてしまうのですが。
ここでの学びは、半分当たり前のことではありますが、与え方が重要、ということです。ビジネスの世界でも、新人に仕事を教えることがあると思いますが、よくできる人ほど自分で全てをやってしまいがちです。その方が短期的には費用対効果が高いためです。
しかしそれでは、ホーウッドの言う「食料を与えるだけ」となり、新人の成長欲を奪ってしまいます。それは、専制政治下の民衆の陥る状況によく似ています。そうではなく、再生産の手段そのものを身につけさせ、より上位の欲求に目覚めてもらうことが、中長期的にはリターンの大きい育成方法なのだろうと思います。