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2021年6月6日日曜日

ヒルデスハイム伯爵「これで敵が動かぬ理由に合点がいくではないか」(本伝第20話)

貴族連合軍(リップシュタット連合軍)の作戦会議で総司令官メルカッツが(色々な理由から)出撃を認めたため、新皇帝を擁立するローエングラム侯爵ラインハルトと貴族連合軍は、内乱勃発後、初めて戦火を交えることになりました。

ローエングラム侯爵側の指揮官は、ウォルフガング・ミッターマイヤー中将。アムリッツァ星域会戦で、自軍の進行速度が速すぎて自由惑星同盟の第9艦隊を追い抜いてしまったため、「疾風ウォルフ」というあだ名がついた有能な提督です。(もっとも、個人的には、アムリッツァでの彼の作戦は実は失敗だったんじゃないかと思います。どこにも語られていませんが、第9艦隊は司令官アル・サレム提督が重傷を負うものの、後を継いだモートン提督は秩序をもって撤退できているためです。恐らく、スピードを出しすぎて止まれなかったせいで、攻撃のタイミングが理想から一歩遅れたのではないでしょうか)。

一方、貴族連合軍側は、「理屈倒れの」シュターデン提督を筆頭に、貴族提督のヒルデスハイム伯爵という陣営でした。

両陣営は、ミッターマイヤーが敷設した機雷群(熱反応型・自律移動型ですので、艦隊が近くを通ると餌食になります)を挟んで、数日間にらみ合いを続けます。疾風ウォルフの艦隊なのに、全く動かない。シュターデンは「罠がある」と見込みますが、経験のないヒルデスハイムはそうは思いません。そこに、丁度よくミッターマイヤー側の通信を盗聴できた旨が、シュターデンとヒルデスハイムの下に伝えられます。曰く、「ミッターマイヤーはローエングラム侯爵の援軍を待っている」、と。

これにヒルデスハイム伯は意気込みます。すなわち、「これで敵が動かぬ理由に合点がいくではないか」ということです。もちろん、これはミッターマイヤーの策略でした。シュターデンの方は「こんなに簡単に傍受できるのはおかしい」と、真実を突くのですが、ヒルデスハイム伯爵の勢いに負けて動いてしまい、貴族連合軍は初戦で大敗するのです。

ヒルデスハイム伯爵「これで敵が動かぬ理由に合点がいくではないか」(本伝第20話)
『銀河英雄伝説』DVD 本伝第20話 (C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっふ・サントリーより引用

ここでの学びは、自分の狭い料簡と見た目だけで都合よく判断してはいけない、ということです。

ヒルデスハイム伯爵は、艦隊戦の経験がありません。そのため、「敵が動かない」→「援軍を待っているという連絡が入った」→「援軍が来る前に戦わないと負ける」、という、超短絡的な考え方をしてしまいます。自分の願望(「戦いたい」)を正当化するため、都合よく目の前の事象を解釈していると言えます。一番やってはいけないことです。ヒルデスハイム伯爵のここでの最もあるべき姿は、自身の経験不足を素直に認め、事実を客観的に観察し、自身の短絡的な考えを批判的に再考する、ということでした。しかし、当時のゴールデンバウム朝貴族は、もっぱら「自分が絶対正しい」から思考がスタートしますので、自身の考えを批判的に見るなんて、そもそも不可能でした。残念ながら。

ビジネスの世界でも、これはよくあることだと思います。私自身もそうです。根拠のない自信というか、自分の知らない世界があることを「知らない」ということの恐ろしさに、気づいていない時代というものが、誰にもある、ということだと思います。(一言で言うと、「若気の至り」です)。

そして、もう一つの学びは、知りすぎると逆に判断できない、ということです。

シュターデン提督は、経験はそこそこで、艦隊戦の知識は豊富です(恐らく、帝国軍の中で一番だと思います)。そして、「(疾風ウォルフなのに)敵が動かない」→「何か策略がある(可能性が多すぎて決めきれない)」→「都合のよい通信が傍受できた」→「何か策略がある(やっぱり見極めきれない)」と、知識が豊富であることが逆に仇になり、選択肢が豊富に浮かびすぎて、決断できませんでした。最終決断ができたのは、皮肉にも、ヒルデスハイム伯爵が自身の浅はかな考えを押し付けてきたからです。

そう考えると、この二人、実はひとつ間違えると理想の組み合わせだったかもしれません。メルカッツ総司令官の副官シュナイダーは、彼らを「現実感覚に欠けるシュターデン提督と血気にはやるヒルデスハイム伯」と酷評していますが、もしシュターデンが理論重視であっても手堅い作戦案をいくつか立て切ることができて、ヒルデスハイムが実行を後押し出来ていたら、どうなっていたか。戦術面の巧拙がありすぎるため、貴族連合軍が勝ち切ることはなかったでしょうけど、もしかしたら善戦していたかもしれません。

2021年5月29日土曜日

ベルンハルト・フォン・シュナイダー「一度痛い目にあった方が身のため、ということですか」(本伝第20話)

新皇帝に対抗してブラウンシュヴァイク公爵の下に集結した貴族連合軍(リップシュタット連合軍)は、総司令官として老練なメルカッツ上級大将を迎えました。メルカッツ提督が自由な手腕を発揮すれば、皇帝を擁立するローエングラム侯ラインハルトも苦戦を強いられたはずです。なぜならば、数の上では貴族連合軍の方が優勢だったからです。

しかしながら、メルカッツ提督は軍の統率に非常に苦労することになります。実務面で有能ではない提督や、戦いの場に出たことのない貴族提督が多数参戦していたからです。作戦会議の場では、「理屈倒れ」と揶揄されるシュターデン提督が、華麗で魅力的ではあるものの実行不可能な作戦を披露してしまい、場が紛糾します。

メルカッツはこの場を鎮めるため、シュターデン提督と貴族達に出撃を許可しました。この際にメルカッツの副官であるシュナイダー少佐が、上官の真意をこの言葉で見事に突いています。曰く、「一度痛い目にあった方が身のため、ということですか」。メルカッツの「言葉で言っても分からんだろうからな」という返しが、当時の貴族連合軍の実情を如実に表していて、痛々しい気持ちになるシーンです。

シュナイダー「一度痛い目にあった方が身のためと、いうことですか」(本伝第20話)
『銀河英雄伝説』DVD 本伝第20話 (C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっふ・サントリーより引用

ここでの学びは、世の中、言葉で説明できるのは半分程度、ということです。

シュターデンの作戦が実行不可能であることを言葉で説明し、ブラウンシュヴァイク公を含む連合軍のメンバーに「理解」を求めることは、大変ではあるものの、可能だったと思います。しかし、メルカッツはそれをしませんでした。なぜなら、たとえ言葉の上で理解しても、彼らは腹落ちをしてくれないと考えたからです。

人間が物事を知って、理解して、腹落ちするまでには、以下のように複数の「段階」があります。

 STEP0:何も知らない状態

 STEP1:知っているだけで理解できていない状態

 STEP2:理解しているが腹落ちしていない状態

 STEP3:腹落ちしている状態

STEP3までいかないと、人間はそれを自分事として捉えられないですし、身に付き方も中途半端になります。子供の頃に自転車に乗ったり、泳げるようになったりと、色々とできることが増えると思いますが、まさに自転車の乗り方を「理屈だけは」分かっている状態、泳ぎ方を「文字の上では」理解している状態が、上記のSTEP2に当たります。

そして重要なのは、STEP2からSTEP3に持っていけるのは、自分しかいない、という点です。誰かに教わることはできません。自転車に乗れるようになるのは、自分でやってみて感覚を掴む以外に方法がありません。水泳も一緒です。

そのため、メルカッツは「言葉で言っても分からんだろう」と、貴族達を戦いの場に出撃させたのでした。STEP3まで到達していない人々にいくら言葉で説明しても、STEP2のレベルに持っていくのがやっとですし、最悪の場合、そもそも理解すらしてもらえないリスクがあります。自転車に乗れたことのない人に、自転車に乗った際の気持ち良さやバランス感覚を共有することが困難、ということと同じです。

逆に、ラインハルト陣営は、戦いに関してはSTEP3のレベルに達している提督ばかりが集まっています。そうなると、言葉での説明も最小限で済みます。皆、自転車に乗れるかの如く、同じ感覚で戦いができるからです。歴史の世界でもビジネスの世界でも、チームとしては全員がそのレベルに達していると、無類の強さを発揮するのだと思います。

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