貴族連合軍(リップシュタット連合軍)の作戦会議で総司令官メルカッツが(色々な理由から)出撃を認めたため、新皇帝を擁立するローエングラム侯爵ラインハルトと貴族連合軍は、内乱勃発後、初めて戦火を交えることになりました。
ローエングラム侯爵側の指揮官は、ウォルフガング・ミッターマイヤー中将。アムリッツァ星域会戦で、自軍の進行速度が速すぎて自由惑星同盟の第9艦隊を追い抜いてしまったため、「疾風ウォルフ」というあだ名がついた有能な提督です。(もっとも、個人的には、アムリッツァでの彼の作戦は実は失敗だったんじゃないかと思います。どこにも語られていませんが、第9艦隊は司令官アル・サレム提督が重傷を負うものの、後を継いだモートン提督は秩序をもって撤退できているためです。恐らく、スピードを出しすぎて止まれなかったせいで、攻撃のタイミングが理想から一歩遅れたのではないでしょうか)。
一方、貴族連合軍側は、「理屈倒れの」シュターデン提督を筆頭に、貴族提督のヒルデスハイム伯爵という陣営でした。
両陣営は、ミッターマイヤーが敷設した機雷群(熱反応型・自律移動型ですので、艦隊が近くを通ると餌食になります)を挟んで、数日間にらみ合いを続けます。疾風ウォルフの艦隊なのに、全く動かない。シュターデンは「罠がある」と見込みますが、経験のないヒルデスハイムはそうは思いません。そこに、丁度よくミッターマイヤー側の通信を盗聴できた旨が、シュターデンとヒルデスハイムの下に伝えられます。曰く、「ミッターマイヤーはローエングラム侯爵の援軍を待っている」、と。
これにヒルデスハイム伯は意気込みます。すなわち、「これで敵が動かぬ理由に合点がいくではないか」ということです。もちろん、これはミッターマイヤーの策略でした。シュターデンの方は「こんなに簡単に傍受できるのはおかしい」と、真実を突くのですが、ヒルデスハイム伯爵の勢いに負けて動いてしまい、貴族連合軍は初戦で大敗するのです。
ここでの学びは、自分の狭い料簡と見た目だけで都合よく判断してはいけない、ということです。
ヒルデスハイム伯爵は、艦隊戦の経験がありません。そのため、「敵が動かない」→「援軍を待っているという連絡が入った」→「援軍が来る前に戦わないと負ける」、という、超短絡的な考え方をしてしまいます。自分の願望(「戦いたい」)を正当化するため、都合よく目の前の事象を解釈していると言えます。一番やってはいけないことです。ヒルデスハイム伯爵のここでの最もあるべき姿は、自身の経験不足を素直に認め、事実を客観的に観察し、自身の短絡的な考えを批判的に再考する、ということでした。しかし、当時のゴールデンバウム朝貴族は、もっぱら「自分が絶対正しい」から思考がスタートしますので、自身の考えを批判的に見るなんて、そもそも不可能でした。残念ながら。
ビジネスの世界でも、これはよくあることだと思います。私自身もそうです。根拠のない自信というか、自分の知らない世界があることを「知らない」ということの恐ろしさに、気づいていない時代というものが、誰にもある、ということだと思います。(一言で言うと、「若気の至り」です)。
そして、もう一つの学びは、知りすぎると逆に判断できない、ということです。
シュターデン提督は、経験はそこそこで、艦隊戦の知識は豊富です(恐らく、帝国軍の中で一番だと思います)。そして、「(疾風ウォルフなのに)敵が動かない」→「何か策略がある(可能性が多すぎて決めきれない)」→「都合のよい通信が傍受できた」→「何か策略がある(やっぱり見極めきれない)」と、知識が豊富であることが逆に仇になり、選択肢が豊富に浮かびすぎて、決断できませんでした。最終決断ができたのは、皮肉にも、ヒルデスハイム伯爵が自身の浅はかな考えを押し付けてきたからです。
そう考えると、この二人、実はひとつ間違えると理想の組み合わせだったかもしれません。メルカッツ総司令官の副官シュナイダーは、彼らを「現実感覚に欠けるシュターデン提督と血気にはやるヒルデスハイム伯」と酷評していますが、もしシュターデンが理論重視であっても手堅い作戦案をいくつか立て切ることができて、ヒルデスハイムが実行を後押し出来ていたら、どうなっていたか。戦術面の巧拙がありすぎるため、貴族連合軍が勝ち切ることはなかったでしょうけど、もしかしたら善戦していたかもしれません。
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