シュターデン提督は敗北後、近くにあるレンテンベルク要塞に逃げ込みます。レンテンベルク要塞は貴族連合軍の本拠地ガイエスブルク要塞に迫る上で、重要な拠点でした。そのため、ローエングラム侯ラインハルトはレンテンベルク要塞の攻略に向かいます。
ここの陸戦部隊を率いていたオフレッサー上級大将は帝国軍の守旧派で、とにかくローエングラム侯爵ラインハルトのことが大嫌いという人でした。また、一対一の戦いには滅法強く、そのため白兵戦は絶対に避けるべきでしたが、残念ながら彼が守る通路を占拠しない限り、要塞は占領できないという状況になっていました。
幾度となく突入するラインハルトの白兵部隊を、一人残らずなぎ倒していくオフレッサー。恐らく、小隊単位で死者が出たのでは、と思われます。しかし、ミッターマイヤー、ロイエンタール両提督の仕掛けた「落とし穴」という古風な罠にかかって捕縛され、後は処刑を待つのみ、というところまでオフレッサーは追い込まれます。部下を大量に殺された両提督のみならず、ラインハルト陣営では即刻彼を処刑すべきという声が大多数を占めていたためです。
ところが、参謀長オーベルシュタインの進言で、オフレッサーは生きたまま解放され、貴族連合軍の当主ブラウンシュヴァイク公の下に帰還しました。無邪気にブラウンシュヴァイク公の下に戻ってきたオフレッサー。しかし、ブラウンシュヴァイク公以下門閥貴族達は、オフレッサーとラインハルトが密約を交わして助けてもらったと考えました。その雰囲気を察したオフレッサーは「罠だ、これは罠なんだ!分からんのか、馬鹿どもが!」と必死で弁明するものの、結局、貴族達が見守る中、アンスバッハ准将の手で射殺されたのでした。
ここでの学びは、一度ゼロベースで俯瞰して自身の状況を見るべき、という点です。
オフレッサーは、頭の悪い人では決してありません。落とし穴に嵌ってはしまいましたが、門閥貴族の中における自身の位置づけや振る舞い方は良く考えられていますし、シェーンコップのかつての上官である曲者リューネブルクとも上手に駆け引きができています。しかし、今回はあまりに先入観に溺れすぎ、特に自分自身の「見え方」に対して盲目すぎたのだと思います。
それは、「自分が疑いなく門閥貴族の仲間であり、裏切ることなどありえない」ということが、誰の目にも疑いようのない事実だと考えてしまった、ということです。これまでの長い間、ラインハルトに対して示してきた嫌悪感と態度も、その考えを後押ししています。周囲からもそう見られている、という自覚が大きすぎました。そのため、解放されてブラウンシュヴァイク公の下に戻った時に、自分が裏切り者の疑いを受けるとは、全く想定していませんでした。
他方で、ブラウンシュヴァイク公は、起きている事実を並べ、オフレッサーとは反対の結論を導き出しました。これまで明らかにラインハルトに敵対していたオフレッサー、しかも大勢の兵士を殺している、その彼が処刑されず許されて自分の下に現れた。ついでに、これはオフレッサーは知らない事実でしたが、彼以外の主だったメンバーは、ラインハルトにより処刑されていました。そのため、「オフレッサーだけ特別に許された。これは何か裏交渉があったに違いない」と、ブラウンシュヴァイク公は考えます。そして、疑いもせず、彼を処刑してしまいます。
「自分がそう思っているのだから、周りもそう思っているに違いない」という妄想に端を発した悲劇ですが、そうなることを見越してオフレッサーを解放したオーベルシュタインの慧眼が光る一幕でした。
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