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2021年7月23日金曜日

ラインハルト・フォン・ローエングラム「人の命とは、そんな単純な数字で語られるべきものではない」(本伝第23話)

大艦隊のほぼ全てを失い、反皇帝派のリップシュタット連合軍は敗北への道を突き進んでいました。そんな中、門閥貴族の領地ヴェスターラントで暴動が起き、総大将ブラウンシュヴァイク公爵の甥、シャイド男爵が民衆に殺されてしまいます。

そんなヴェスターラントへの報復のため、ブラウンシュヴァイク公爵は地球を壊滅状態に陥れた熱核兵器の使用を決意します。側近アンスバッハ准将の制止も意味はなく、逆にアンスバッハは拘禁されてしまいました。善悪の判断もつかないくらい、ブラウンシュヴァイク公は追い詰められていたと言えます。

その報はリップシュタット連合軍に潜伏していたスパイから、ローエングラム侯爵ラインハルトの下に届けられます。当然、ブラウンシュヴァイク公爵の暴挙を止めるべく、艦隊を派遣しようとするラインハルト。しかし、そこを参謀オーベルシュタインに止められます。

いっそのこと、ブラウンシュヴァイク公にこの暴挙を実行させるべきです。オーベルシュタインは、このヴェスターラント200万人の民衆を犠牲にして、政治宣伝に使うべきだと主張するのです。最大多数の幸福のため、少数を犠牲にする。初歩的なマキャベリズムの論法を用いて、オーベルシュタインはラインハルトに決断を迫ります。

それに反発したラインハルトの発言が、「人の命とは、そんな単純な数字で語られるべきものではない」でした。

ラインハルト・フォン・ローエングラム「人の命とは、そんな単純な数字で語られるべきものではない」(本伝第22話)
『銀河英雄伝説』DVD 本伝第23話 (C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっふ・サントリーより引用

ここでの学びは、倫理(人の命)と政治(数の論理)は相反し、どちらかの選択を迫られることがある、という点です。

ラインハルトはこの時、オーベルシュタインに言いくるめられ、明確に核攻撃を止めることができませんでした。彼がキルヒアイスと共有している民衆第一の倫理的な信念と、オーベルシュタインの持ち出す政治的な覇者の論理の間に挟まれ、逡巡してしまったのです。キルヒアイスがもしこの場にいたら、ラインハルトの気持ちを尊重し、オーベルシュタインに真っ向から反対したはずですが、残念ながらラインハルトは一人でした。

結果として、この判断はラインハルトにとって人生で二番目にまずい判断(一番まずい判断の場面は、この後すぐに来ます)となりました。確かにオーベルシュタインによる政治宣伝により、リップシュタット連合軍の瓦解が早まり、内戦が早く集結したことは確かです。しかし、ここで彼は掛け替えのないものを失ってしまいます。民衆を「本気で」大事にするという姿勢と、キルヒアイスの信頼です。(ラインハルトはこの後、続けて人生で一番まずい判断をしてしまい、キルヒアイスそのものも失ってしまいます)。

このように、政治を優先した判断は、即効性はあるものの、根本的な何かを失いがちです。他方で、倫理を優先した判断は、時間はかかるものの、一貫性を確保して支持を得ることができます。今後、ラインハルトはオーベルシュタインの掲げる政治優先の戦略で覇者になりますが、この場面にもしキルヒアイスがいて、ラインハルトに倫理優先の判断をさせていたらどうなったか。今となっては完全な「if」の世界ですが、史実とは全く違う展開になったであろうことは疑いありません。

2021年7月19日月曜日

ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ「ブラウンシュヴァイク公は病人なのだ」(本伝第22話)

ローエングラム侯爵の逃げる演技にまんまと騙され、本拠地ガイエスブルク要塞から引きずり出された挙句、猛反撃を受けて壊滅状態に陥ったリップシュタット連合軍。彼らを全滅から救ったのは、ブラウンシュヴァイク公爵に疎まれガイエスブルク要塞に残っていたメルカッツ提督でした。

しかし、境地を救ったメルカッツに対し、ブラウンシュヴァイク公爵は心無い一言をかけます。「なぜもっと早く救援に来なかった!!」。自分がメルカッツに要塞に残れと指示したにも関わらず、です。これにはメルカッツの副官シュナイダーも黙ってはおられません。身を乗り出して抗議しようとしますが、上官に制止されます。

そんなシュナイダーに、メルカッツがその後語った内容がこれです。少し長いですが、名言ですので、丸ごと引用します。「ブラウンシュヴァイク公は病人なのだ。精神面のな。その病気を育てたのは、500年にも及ぶ貴族の特権の伝統そのものなのだ。その意味で言うと、公爵も被害者化もしれんな。100年前ならあれでも通じたのだ。不運な人だ。」

ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ「ブラウンシュヴァイク公は病人なのだ」(本伝第22話)

『銀河英雄伝説』DVD 本伝第22話 (C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっふ・サントリーより引用

ここでの学びは、時代が作った「普通の人」が、その時代の終わりには敵役になる、ということです。

銀河帝国は、当時の国家元首ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムが民主制を廃し、自身を支持する集団を帝国貴族として特権を与え、専制国家としての支配体制として整えた国です。そして、その特権は世襲で代々親から子へ受け継がれるものとされました。そのため、メルカッツの言うこの「特権」は、時代が経つに連れ、門閥貴族達が生まれた時から保有している支配権ということになります。日本の士農工商制度の武士、封建性や王制時代の貴族達、神権政治の神官達の位置づけです。

人は人の下に人を作ることを好むものだと思います。福沢諭吉が「天は人の下に人を造らず」と敢えて言っているのは、放っておくと人は人の下に人を作りがちだからだと思います。しかも、それが自分が築いたものではなく、生まれた時から、つまり本人の努力ではなく祖先から受け継いだものな場合、余計厄介です。自分の下に人がいることが当たり前だと思い込んでしまうからです。こうして、貴族の時代の「普通の貴族」のメンタリティが出来上がります。それはゴールデンバウム王朝に特有なものではなく、日本の武士、神権政治の神官も同様です。

そして、時代が終わりに近づくと、彼らは途端に敵役に転じます。明治維新で終焉を迎えたのは武家政治でした。近代に移る際、ヨーロッパでは封建制と貴族制が消えていきました。そしてここでも討たれるべき敵役として、ブラウンシュヴァイク公爵率いる門閥貴族が対象となりました。メルカッツの言うように、「100年前ならあれでも通じた」、つまり彼らの方がむしろ「普通」だったはずなのに。

同じことは、規模は違いますが、もっと身近でも起きています。ビジネス現場で、新しいやり方に対する抵抗勢力がいる場合、彼ら守旧派はだいたい古いやり方をよく知っている方々でしょう。そして、守旧派の方がむしろ、10年前には「普通」だったと思います。しかし、時代が変わると、彼らはまるで敵のように語られることが少なくないと思います。

自分も今は「普通」かもしれないが、いずれ新しい「普通」の人々にとっての「敵」になるかもしれない。そう考えて、常に何が「普通」なのかをウォッチし続けること、つまり歴史的に言うと「開明派」であることが大事なのだと思います。

また、シュナイダーがメルカッツとの会話後に「ブラウンシュヴァイク公は確かに不運かもしれない。しかし、その人に未来を託さねばならないのは、もっと不運ではないのか!」とモノローグで語っているように、「普通」から「敵」になりつつある勢力に加担すると不幸です。そうならないためにも、時代の潮流を読み続けなければならないのだと思います。

2021年7月14日水曜日

ブラウンシュヴァイク公爵「これは賞すべき行いであると認める」(本伝第22話)

リップシュタット連合軍の総司令官メルカッツが(あまり重要拠点ではない)シャンタウ星域でローエングラム侯爵の軍を退けたことは、貴族連合軍に思わぬ効果をもたらしていました。士気が制御不可能なレベルにまで上がり、出撃すれば必ず勝てるという妄想が広がっていました。

つまり、彼らは「自分たちが強い」と、誤解してしまったのです。これはシャンタウ星域を放棄したロイエンタールには想定しえなかった効果でしたが、ローエングラム侯爵ラインハルトや参謀オーベルシュタインにとっては予定通りの状況でした。

そんな中、リップシュタット連合軍の本拠地ガイエスブルク要塞に、先の戦いでシュターデン提督を破った疾風ウォルフガング・ミッターマイヤー提督が仕掛けてきます。彼は、要塞主砲の射程ギリギリのラインで示威行動を取っていました。ここに、連合軍の意気上がる貴族達が食いつきます。メルカッツが制止したにも関わらず、フレーゲル男爵(総大将ブラウンシュヴァイク公爵の甥)とそれに呼応した貴族達が、勝手に出撃してしまいます。

…そして、これまたメルカッツの一番嫌な結果に終わります。つまり、彼らはまた勝ってしまったのです。ミッターマイヤーは、フレーゲル男爵の軍勢を見るや否や、一目散に逃げだしてしまったのです。そして、貴族連合軍は、さらに「自分達は強い」という妄想を強めることになります。それがラインハルトとオーベルシュタインによって作り出された幻想であることを知らずに。

フレーゲル男爵たちは意気揚々と凱旋しますが、そこに待っていたのは、メルカッツの厳しい追及でした。「軍法会議も覚悟せよ!」。総司令官の指令に背いたのですから、通例の軍隊では、当たり前の処罰です。しかし、ここは規律ある軍隊ではなく、貴族の花園でした。総大将たるブラウンシュヴァイク公爵は、彼らを貴族であるからという理由で許したのです。「これは賞すべき行いであると認める」。その一言に、メルカッツがげんなりしたことは言うまでもありません。

こうして、リップシュタット連合軍は、「何をやっても許される」というなんの統制も効かない状況の下、奈落の底へと突き進んでいくことになるのです。

ブラウンシュヴァイク公爵「これは賞すべき行いであると認める」(本伝第22話)
『銀河英雄伝説』DVD 本伝第22話 (C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっふ・サントリーより引用

ここでの学びは、トップが規律を破ってはいけない、という点です。

ブラウンシュヴァイク公爵は帝国の大多数の貴族が集積する連合軍の総大将でした。また、自身の戦争スキルの不足を補完するため、メルカッツを総司令官として招聘しました。メルカッツの下で軍規が守られることが、この戦いに勝つための最低限の条件であるはずでした。

しかし、ブラウンシュヴァイク公爵は、甥であるフレーゲル男爵の軍規違反を咎めることができませんでした。というより、咎める必要性を恐らく感じなかったのだろうと思います。そこに、彼の将としての見通しの甘さが表れています。身内を優先して「あるべき姿」を捻じ曲げてしまったこと、そして、身内の軍規違反をこともあろうか「賞すべき行い」としてしまったこと、このことは、何があるべきで、何があるべきでないか、その価値観を180度真逆にしてしまったのだと思います。

一度こういう前例ができてしまうと、メルカッツなど本当に艦隊戦に通じている将帥たちのどんな正論も慎重論も、貴族達には通じなくなります。これが、ローエングラム侯爵ラインハルトとオーベルシュタインが描いた貴族連合軍の内部崩壊シナリオでした。貴族連合軍は、見事に「警戒すべき少数の将帥」と「烏合の衆」の2つに分断されてしまったのです。引き金は、ブラウンシュヴァイク公爵の不用意な一言、「これは賞すべき行いであると認める」だったことは疑いありません。

しかし、もしブラウンシュヴァイク公爵がもう少し将として器があり、フレーゲル男爵を罰していたら、どうなっていたでしょうか。リッテンハイム侯爵により全軍の3分の1を無為に失っていたとは言え、まだ10万隻近くがリップシュタット連合軍には残っていました。その大軍をメルカッツや後の帝国軍の中枢となるファーレンハイトがきっちり率いられていたら、それほど早くこの戦役が終わることはなかったと思います。そして、戦役が長引くということは、クーデターが収束した自由惑星同盟により帝国侵攻の可能性を高めることになり、それはローエングラム侯爵ラインハルトにとっては、極めて都合の悪い事態でした。つまり、貴族連合軍による逆転トライは十分ありえたと言えます。

そういう意味で、この場面は、トップの発言がいかに組織にとって大きな意味があるのか、そのことを反面教師で学ぶ良い機会になったと思います。

2021年5月2日日曜日

アントン・フェルナー「社会にとっての損失だとお思いになりませんか」(本伝第18話)

リップシュタット連合軍(反皇帝派門閥貴族)の中には、皇帝を擁立するラインハルトが戦争の天才であり、艦隊戦になったら勝ち目がないと認識していた有識者がいました。ブラウンシュヴァイク公爵の部下、シュトライト准将とフェルナー大佐です。2人はラインハルトの暗殺を公爵に提案しました。しかし、「必勝の信念のない者に居場所はない」として、ブラウンシュヴァイク公は彼ら2人を罷免してしまいます。

このうち、諦めなかったのがフェルナー大佐です。彼は私的に兵を集め、夜にラインハルト宅を急襲します。しかし、それはラインハルトの思う壺でした。フェルナーはキルヒアイスが待ち伏せをしている中に飛び込んで行ってしまい、万事休す。この時点で、フェルナー大佐は、全てがラインハルトの掌の上で展開していること、そして貴族連合軍に到底勝ち目がないことを悟ります。

フェルナーの本当に凄いところは、捕えられた後です。彼は臆することなく「できますなら、閣下の部下にしていただきたいと思い、出頭しました」と言ってのけました。先ほどまで暗殺しようとしていたのに、です。

呆気に取られるラインハルトが「卿の忠誠心はどういう基準で左右されるのか」と尋ねると、忠誠心は価値の分かる人に捧げてこそ意味がある、価値の分からない人に捧げるのは、宝石を泥の中に放りこむようなもので、それは「社会にとっての損失だとお思いになりませんか」と回答します。この回答がラインハルトの心を掴み、彼は部下として取り立てられることに成功しました。

アントン・フェルナー「社会にとっての損失だとお思いになりませんか」(本伝第18話)
『銀河英雄伝説』DVD 本伝第18話 (C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっふ・サントリーより引用

フェルナー大佐はこの後、参謀長オーベルシュタインの手足となり活躍します。恐らく、オーベルシュタインが生涯で最も信頼する部下だったと思います。

ここでの学びは、自身の価値を基準に所属を決める、ということです。フェルナーは自身が立案した暗殺計画が受け入れられなかった時点で、ブラウンシュヴァイク公を半ば見限っていたと思います。この後の展開を考えると、艦隊戦でラインハルトに挑むより、門閥貴族の庭である帝都オーディンの白兵戦でラインハルトを討つ方が、はるかに成功確率は高かったと思われます。しかし、メンツにこだわって、ブラウンシュヴァイク公は彼の案を拒否しました。

フェルナーの面白いところは、その時点で見限ってラインハルトにつけば良いのに、暗殺計画を実行した点です。彼は、恐らくラインハルトの力量も試したのだと思います。そして、自身が思っていた以上の人物だと悟り、ラインハルトに下りました。

現代社会でも、終身雇用の文化が崩れつつある中、フェルナーのように自身の価値観を基準に所属を決めるべきだと思います。特に、ある会社に「就社」するという考え方は、リスクの大きい考え方になりつつあると思います。理由は以下3つです。

 1.選んだ会社が、この先ずっと存在するとは限らない

 2.会社と自身の需要と供給がマッチしない可能性がある

 3.会社依存で選択肢のない会社人生活は、心を蝕む可能性がある

1と2は、まさに今回のフェルナー大佐に当てはまります。門閥貴族が拠り所とするゴールデンバウム王朝銀河帝国は、この後、数年の間に消滅しますし、需要と供給がマッチしなかったのは、フェルナーとブラウンシュヴァイク公の関係では明らかです。3は人一倍図太いフェルナー大佐には該当しませんが、普通の人間がブラウンシュヴァイク公のような主人の下で働き続けると、やはり心を病んでしまうのではないかと思います。

2021年4月25日日曜日

ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ「特権は人の精神を腐敗させる」(本伝第18話)

貴族連合軍(リップシュタット連合軍)の当主ブラウンシュヴァイク公爵は、皇帝を擁立するラインハルトが戦争の天才であることを認識していました。そのため、貴族連合艦隊を自ら率いるのではなく、能力のある職業軍人に任せようとしました。そこで白羽の矢が立ったのが、メルカッツ上級大将です。

メルカッツ提督は門閥貴族達に媚びを売らないため出世が遅れていましたが、アスターテ星域会戦でラインハルトの下で活躍したように、当時の帝国の中でも数本の指に入る実力の持ち主です。また、名前に「フォン」が入っている通り、帝国貴族の一員でもあります。しかし、メルカッツ提督は内戦に関与する気が無く、ブラウンシュヴァイク公による総司令官就任への誘いに対し、何度もお断りを入れていました。

そこで、ブラウンシュヴァイク公は最終手段に出ます。メルカッツ提督を私邸に呼び、娘を犠牲にするか、司令官に就くか、選べと脅迫したのです。メルカッツは最終的に脅迫に屈しますが、その際、「軍事に関する全権を自身が持つこと」、「軍規に違反したものは、門閥貴族といえど厳罰に処すこと」をブラウンシュヴァイク公に約束させます。

しかし、メルカッツは実際はうまくいかないと考えていました。その帰り道に、副官のシュナイダー少佐に、次のように語ります。「ブラウンシュヴァイク公はすぐに作戦に関与してくるだろうし、軍規にも従うまい。そのうち、ローエングラム侯よりも私の方を憎むようになるさ。特権は人の精神を腐敗させる。自分を正当化し他人を責めることは、彼らの本能のようなものだ。かくゆう儂も軍隊で下級兵士に接するまでは、そのことに気づかなかったが…」。

ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ「特権は人の精神を腐敗させる」(本伝第18話)
『銀河英雄伝説』DVD 本伝第18話 (C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっふ・サントリーより引用

ここでの学びの一つは、特権の麻薬性、です。人は一度特権を持つと、メルカッツの言うように、全ては自分のため、他人のせい、という、人間の究極の欲と密結合してしまいます。また、それを失うことへの異常な恐怖心もセットになり、特権を守るために特権を行使し続けるという悪循環(行使者からすると好循環)が生まれます。それは、何かを新たに得るために努力する、という真っ当で健全な知恵の獲得とは、180度方向の異なる精神構造を強固に育てるサイクルだと思います。

そういった状況は、現代社会でもそこら中にあるのではないか、と思います。世襲に近い政治家集団、天下りなどの行政とビジネスの癒着、スクールカーストなど。ここで知っておくべきことは、特権が当たり前の人々から距離を置くべきであることだと思います。彼らの考え方を変えるという試みは、多くの場合、無益と思われるからです。

もう一つの学びは、違う世界に接することの重要さ、だと思います。メルカッツは貴族ですが、彼は下級兵士との交わりの中で、貴族社会の奇妙さに気づくことになります。その気づきによって、彼は下級兵士達を差別せず扱うことができたでしょうし、妙な偏見を持たずに戦略や戦術を組み立てることができたのだろうと思います。また、先の話ではありますが、亡命先の自由惑星同盟で彼が受け入れられたのも、そういった気づきを若いうちから得ていたことと無関係ではないと思います。(もちろん、後見人だったヤンの存在も大きかったと思いますが)。

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