リップシュタット連合軍(反皇帝派門閥貴族)の中には、皇帝を擁立するラインハルトが戦争の天才であり、艦隊戦になったら勝ち目がないと認識していた有識者がいました。ブラウンシュヴァイク公爵の部下、シュトライト准将とフェルナー大佐です。2人はラインハルトの暗殺を公爵に提案しました。しかし、「必勝の信念のない者に居場所はない」として、ブラウンシュヴァイク公は彼ら2人を罷免してしまいます。
このうち、諦めなかったのがフェルナー大佐です。彼は私的に兵を集め、夜にラインハルト宅を急襲します。しかし、それはラインハルトの思う壺でした。フェルナーはキルヒアイスが待ち伏せをしている中に飛び込んで行ってしまい、万事休す。この時点で、フェルナー大佐は、全てがラインハルトの掌の上で展開していること、そして貴族連合軍に到底勝ち目がないことを悟ります。
フェルナーの本当に凄いところは、捕えられた後です。彼は臆することなく「できますなら、閣下の部下にしていただきたいと思い、出頭しました」と言ってのけました。先ほどまで暗殺しようとしていたのに、です。
呆気に取られるラインハルトが「卿の忠誠心はどういう基準で左右されるのか」と尋ねると、忠誠心は価値の分かる人に捧げてこそ意味がある、価値の分からない人に捧げるのは、宝石を泥の中に放りこむようなもので、それは「社会にとっての損失だとお思いになりませんか」と回答します。この回答がラインハルトの心を掴み、彼は部下として取り立てられることに成功しました。
フェルナー大佐はこの後、参謀長オーベルシュタインの手足となり活躍します。恐らく、オーベルシュタインが生涯で最も信頼する部下だったと思います。
ここでの学びは、自身の価値を基準に所属を決める、ということです。フェルナーは自身が立案した暗殺計画が受け入れられなかった時点で、ブラウンシュヴァイク公を半ば見限っていたと思います。この後の展開を考えると、艦隊戦でラインハルトに挑むより、門閥貴族の庭である帝都オーディンの白兵戦でラインハルトを討つ方が、はるかに成功確率は高かったと思われます。しかし、メンツにこだわって、ブラウンシュヴァイク公は彼の案を拒否しました。
フェルナーの面白いところは、その時点で見限ってラインハルトにつけば良いのに、暗殺計画を実行した点です。彼は、恐らくラインハルトの力量も試したのだと思います。そして、自身が思っていた以上の人物だと悟り、ラインハルトに下りました。
現代社会でも、終身雇用の文化が崩れつつある中、フェルナーのように自身の価値観を基準に所属を決めるべきだと思います。特に、ある会社に「就社」するという考え方は、リスクの大きい考え方になりつつあると思います。理由は以下3つです。
1.選んだ会社が、この先ずっと存在するとは限らない
2.会社と自身の需要と供給がマッチしない可能性がある
3.会社依存で選択肢のない会社人生活は、心を蝕む可能性がある
1と2は、まさに今回のフェルナー大佐に当てはまります。門閥貴族が拠り所とするゴールデンバウム王朝銀河帝国は、この後、数年の間に消滅しますし、需要と供給がマッチしなかったのは、フェルナーとブラウンシュヴァイク公の関係では明らかです。3は人一倍図太いフェルナー大佐には該当しませんが、普通の人間がブラウンシュヴァイク公のような主人の下で働き続けると、やはり心を病んでしまうのではないかと思います。
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