2022年5月4日水曜日

ルパート・ケッセルリンク「未来の原因としての現在をより大切にすべきでしょうな」(本伝第34話)

総司令官ヤン・ウェンリーの査問中に、留守となったイゼルローン要塞を狙われた自由惑星同盟。無事に撃退はできたものの、査問を持ち掛けてきたフェザーンに対して、当然不信感を募らせていました。

フェザーン駐在の自由惑星同盟高等弁務官ヘンスローは、自治領主の首席秘書官ルパート・ケッセルリンクに対し猛然と抗議しますが、ケッセルリンクはどこ吹く風。まったく取り合う様子がありません。それどころか、

「不当な勧告でしたな。内政干渉にあたりますから。あなた方にこそ、拒否すべき正当な権利と理由があったはずです」

と、涼し気に言ってのけたのでした。確かにケッセルリンクの言う通りなのですが、同盟政府はフェザーンへの借金の返済を猶予してもらう以外に選択肢がなかったため、若干悪辣なやり方だったといえるでしょう。といいつつも、同盟政府としてもヤンをいずれ無き者にしたいという願望があったため、フェザーンの査問の申し入れは実は渡りに船だったとも言えます。要は、どちらも自分の責任を他人に押し付け合っていただけなのでした。

ケッセルリンクの刺々しいセリフは、実は更に続きます。

「我々フェザーンは真剣に悩んでいるのですよ。現在のトリューニヒト政権と、将来あるべきヤン政権のどちらと友諠を結ぶべきであろうか、と」。

そして、帝国でラインハルトが独裁体制を築いた点に触れ、「歴史の可能性の豊かなこと、運命の気まぐれなこと格の如しです」と続け、「よくお考えになった方がよろしいでしょうな、先行投資の重要さというものを」と、ヘンスローに諭すのでした。ここまでフェザーンのスタンスを現同盟政府の要人にあからさまにする必要は無かったと思いますが、この時のケッセルリンクは、目の前の相手が自分の掌で踊らされていることに、酔ってしまっていたのでは、と思います。

そして、最後に哲学的でもあり、かつ実践的な〆の言葉を残して立ち去るのでした。

「人間には現在は無論大切ですが、過去の結果としての現在よりも、未来の原因としての現在をより大切になさるべきでしょうな」。

ルパート・ケッセルリンク「未来の原因としての現在をより大切にすべきでしょうな」(本伝第34話)
『銀河英雄伝説』DVD 本伝第34話 (C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっふ・サントリーより引用

ここでの学んだのは、未来志向であるべき、ということでした。

ケッセルリンクは脇役で、しかもどちらかと言うと敵役の側なのですが、この第二部では非常に出番が多く、かつ名言をたくさん残しています。この言葉はその中の一つで、当時の私にとても大きな影響を与えました。

ここでの主題は「現在」の位置づけなのですが、彼は因果関係における「現在」の「置き場所」を変えるだけで、「掌で踊る側」になるか、「掌で踊らせる側」になるか、どちらにより近づくかが変わる、ということを暗に言っているように思います。すなわち、過去の前例ばかりを見て、ヤンが政権を取るなど考えられないと、硬直した思考をしてしまうヘンスローと、未来を変えるために現在なすべきこと(例えば先行投資)を考えるケッセルリンクのような考え方では、後者がより「掌で踊らせる側」に近くなる、ということです。

受け身タイプの人間と、攻めタイプの人間を比べて、後者がより良いと言っているようにも聞こえるかもしれませんが、本質はそこではありません。受け身タイプでも攻めタイプでも、その姿勢が未来を見据えた上で必要とされる現在の姿勢なのであれば、それはどちらもケッセルリンクの言う「未来の原因としての現在を大切にする」ということに合致するからです。

ここで大事なのは、その姿勢を採るに至るプロセスだと思います。過去の成り行きから生まれた姿勢なのか、それとも未来の目標を見据えて今採るべき姿勢を考えたのか。やっていることはたとえ一緒だとしても、そのプロセスの違いが、結果を大きく左右するのだと思います。

実際にビジネスの場、特に不測の事態が起きた際に、この(時間的)考え方のプロセスの違いによって、反応の仕方が変わります。

前者の「過去の結果としての現在」を見てしまう人は、不測の事態に弱いです。前例がないためであり、かつ「物事の進行」と「自身」の関係が、「主」と「従」であるため、事態が悪い方向に行けば、自身も悪い方向に引きずられて行ってしまいます。

しかし、後者の「未来の原因としての現在」を見る人にとってはそうではありません。予想外の出来事が起きた「現在」自体も、未来にどう活用するかを考える人が多いと思います。また、そもそも「自身」が「主」として「物事の進行」を「従」わせているため、多少の動揺はあっても、不測の事態を踏まえて計画が見直され、やがて何事もなかったかのように元の状況に戻っています。

「現在」の「置き場所」、つまり現在の姿勢の決め方というたった一つのことですが、それが少年時代から10年、20年と積み重ねられることで、成し遂げる結果は大きく変わるのではないか、と思います。

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