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2021年10月25日月曜日

ヒルデガルト・フォン・マリーンドルフ「人間の集団が結束するためには、どうしても必要なものがあります」(本伝第30話)

フェザーンが銀河帝国に宇宙を統一させるための最初の打ち手として、イゼルローン要塞を帝国に奪還させる目論見を進めていました。彼らはそれを確実なものとするため、自由惑星同盟の要であるヤン・ウェンリー提督をイゼルローンから遠ざけようとしていました。

それと同時に、銀河帝国によるイゼルローン奪還を後押しする策も講じます。フェザーンは科学技術総監シャフトらにより開発された要塞移動技術(門閥貴族の本拠地だったガイエスブルク要塞にワープエンジンをとりつけ、イゼルローン要塞に対峙させるという壮大な計画)を密かに支援したのです。その結果、ラインハルトはガイエスブルク要塞によるイゼルローン奪還作戦の実行を決断しました。

この作戦に反対の意を示したのが、首席秘書官ヒルデガルト・フォン・マリーンドルフ(通称ヒルダ)でした。ヒルダは、帝国貴族の名門、マリーンドルフ伯爵家の長女です。門閥貴族の内乱、リップシュタット戦役の際に、ブラウンシュヴァイク公爵側につかず、いち早くローエングラム侯爵ラインハルト陣営に組したことから、ラインハルトの信頼を得ていました。

ヒルダは、今の時期は戦争ではなく内政に力を入れるべきであることを強調しました。また、ここてヒルダは、自由惑星同盟との関係に関し、自身の考えを披瀝しています。
すなわち、

「人間の集団が結束するためには、どうしても必要なものがあります。(それは)敵ですわ」、「閣下にはお分かりでございます。閣下と閣下を支持する民衆にとって、必要な敵とは、自由惑星同盟ではなく、ゴールデンバウム王朝であると」。

ヒルダも自由惑星同盟のヤンと同様、ラインハルトと自由惑星同盟の共存の可能性を考えていたのではないか、そう匂わせるやり取りだったと思います。

ヒルデガルト・フォン・マリーンドルフ「人間の集団が結束するためには、どうしても必要なものがあります」(本伝第30話)
『銀河英雄伝説』DVD 本伝第30話 (C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっふ・サントリーより引用

ここで学んだのは、仮想敵の有効性でした。

確かに、人類史上、強力な集団が出来上がる際には、必ず「敵」が居たように思います。中世十字軍時代のキリスト教とイスラム教のお互いの関係、諸外国に対する明治政府、など。そもそも日本国も含む国民国家は、国境を設定して内と外を決めている時点で、自分とそれ以外(広義の敵)を作っているということだと思います。

そのように、対峙する敵を「敢えて」作ることで、集団としての結束をより強化できるということは、政治の世界では一つの有効な手段になっている感があります。いわゆる水戸黄門のような勧善懲悪の世界で、世の中に完全な「悪」が存在する、そしてそれに対峙する自分たちが「正義」だ、とする考え方です。単純で分かりやすく、正義側に感情移入することで気持ち良い感覚を持てるため、人気の手段なのだろうと思います。

ただ、政治やビジネスの一手段として、大人に対して使われるレベルであればよいのですが、子供の教育という強力な手段を用いて、歴史や人種・遺伝子レベルまで因果関係を作り上げ、不倶戴天の敵同士のように演出するのはやりすぎではないか、とも思います。※例はあえて挙げません。

ところで、敵がいないと人間が結束できないとしても、敵が人間である必要はないように思います。先史時代にはコントロール不能な大自然がある意味「敵」だったでしょうし(一方で自然が「神」になることもありますが)、現代ではコロナウイルスのような疫病や地球温暖化が団結して対処すべき「敵」だと言えます。そういった、人間以外の脅威を仮想敵とみなして団結することの有意さの方をこそ、今後の子供たちに伝えていく必要があるのではないかと思います。

2021年4月18日日曜日

ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ(ヒルダ)「そうしたものがたくさんあってはお邪魔でございましょう」(本伝第18話)

帝国の名門であるマリーンドルフ伯爵家の命運をかけ、伯爵家の長女であるヒルダは幼帝エルウィン・ヨーゼフ2世を擁立するラインハルトを訪問します。(まだ勃発していませんが)帝国を二分する戦いになった際に、マリーンドルフ家はラインハルトにつくことを明言しに来たのでした。

貴族の助力など端から当てにしていなかったラインハルトですが、この情勢下にわざわざ味方になると言いに来るヒルダの識見に関心を持ち、協力要請を受け入れることとなります。

しかし、ここまでで帰らないのが、ヒルダの凄いところです。大して有利な状況になかったにも関わらず、マリーンドルフ家の家紋と領地を保証する公文書を、ラインハルトから入手することに成功してしまいます。恐らく、貴族の中で一番最初に動いたことが、功を奏したのだと思います。

更に、ヒルダの才覚が光輝いたのが、次の一言です。ラインハルトから「あなたが取りなしてくれる他の貴族の方々にも、同じような保証書が必要か」と問われ、即座に「そうしたものがたくさんあってはお邪魔でございましょう」と切り返しました。この時のヒルダの顔は策士そのもので、オーベルシュタインにも素で勝てるのではないかと思わせるほど才知に満ちたものだったと思います。

ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ(ヒルダ)「そうしたものがたくさんあってはお邪魔でございましょう」(本伝第18話)
『銀河英雄伝説』DVD 本伝第18話 (C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっふ・サントリーより引用

ここでの学びは、交渉の際に、相手がYesと言う量のラインを見極める、ということです。

ラインハルトにとって、マリーンドルフ家のような中規模の貴族の助力というのは、取るに足らないものだったと思います。ヒルダの才覚は思わぬ誤算というべきで、そもそも大して計算に入れていなかったはずです。また、マリーンドルフ家の家門と領土の保証も、巨大な勢力ではありませんので、受け入れ可能な条件だったと考えられます。

しかし、多数の貴族の領土となると、話は別です。ラインハルトの大義名分は、(この時はまだ表に出てきてはいませんが)門閥貴族から平民を開放することにあります。その彼が、多くの貴族の領土を保証してしまうことは、自身の大義を否定することになってしまいます。そこまで読み切っていたため、ヒルダはマリーンドルフ家だけ保証すれば良い、と言ったのです。

「多数の貴族」への保証は受け入れないが、「ただ一つの貴族」の保証なら間違いなく受け入れ可能。だからその「ただ一つの貴族」になるために、誰よりも早く交渉に行く、というロジックでヒルダは動き、そして成功させました。

同様の状況は、現代社会でも起こりうると思います。誰でも、「一つや二つなら許せるけど、量が多くなると嫌」というものがあると思います。そこをうまく読み切って、一つ目や二つ目までを要求するように心がければ、交渉事は普段よりうまくいくのではないでしょうか。

2021年4月11日日曜日

マリーンドルフ伯爵「マリーンドルフ家を道具にして、お前の生きる道を広げることを考えなさい」(本伝第18話)

銀河帝国は皇帝フリードリヒ4世の死後、2つの陣営のいずれにつくべきかが、貴族達の最大の悩み事でした。2つの陣営とは、幼帝エルウィン・ヨーゼフ2世を擁立した宰相リヒテンラーデ侯爵とローエングラム候ラインハルトの陣営、門閥貴族のブラウンシュヴァイク公爵とリッテンハイム侯爵の陣営です。

後にラインハルトの秘書官となるヒルダの父、マリーンドルフ伯爵も同様に悩んでいました。帝国貴族として動くならブラウンシュヴァイク公につくのが本筋、しかし、皇帝に弓を引いてよいものか、しかも皇帝側には戦争の天才(ラインハルト)がいる、というのが、当時の貴族たちの一般的な悩みどころだったようです。

マリーンドルフ伯爵自身は、ヒルダによる「銀河帝国にもいつか終わりがくるし、そもそもこの戦いはローエングラム候が勝つ」という説得で、大きく皇帝派に傾きます。そしてその際に、「この家はお前が継ぐのだし、お前のやりたいようにやりなさい。マリーンドルフ家を道具にして、お前の生きる道を広げることを考えなさい」と言って、ヒルダをローエングラム候ラインハルトの下に送り出すのです。

マリーンドルフ伯爵「マリーンドルフ家を道具にして、お前の生きる道を広げることを考えなさい」(本伝第18話)
『銀河英雄伝説』DVD 本伝第18話 (C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっふ・サントリーより引用

ここには理想的な親と子の関係、家と子の関係が描かれているように思います。貴族に限らず、親というものはつい、親、家、子供たちの間で、主従の関係を想定しがちです。すなわち、親と家が主で、子供たちはそれに従うという考え方です。そのため、家が貴族だから門閥貴族につく、とか、家や親のために子供たちの選択肢を限定してしまうことになってしまいます。

しかし、マリーンドルフ伯爵にとっては、そうではありませんでした。子供(ここではヒルダ)が主で、親や家は従です。親と家は、手段としてヒルダの進みたい道をサポートする側に回っています。子には子としての人生があり、親や家は子を束縛するものではない。当時の貴族としては、特筆すべき柔軟性と包容力のある人物だったことがうかがえます。そしてそのことが、伯爵自身の後の栄達(本人にとっては不本意なものでしたが)に繋がったのだと思います。

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