フェザーンが銀河帝国に宇宙を統一させるための最初の打ち手として、イゼルローン要塞を帝国に奪還させる目論見を進めていました。彼らはそれを確実なものとするため、自由惑星同盟の要であるヤン・ウェンリー提督をイゼルローンから遠ざけようとしていました。
それと同時に、銀河帝国によるイゼルローン奪還を後押しする策も講じます。フェザーンは科学技術総監シャフトらにより開発された要塞移動技術(門閥貴族の本拠地だったガイエスブルク要塞にワープエンジンをとりつけ、イゼルローン要塞に対峙させるという壮大な計画)を密かに支援したのです。その結果、ラインハルトはガイエスブルク要塞によるイゼルローン奪還作戦の実行を決断しました。
この作戦に反対の意を示したのが、首席秘書官ヒルデガルト・フォン・マリーンドルフ(通称ヒルダ)でした。ヒルダは、帝国貴族の名門、マリーンドルフ伯爵家の長女です。門閥貴族の内乱、リップシュタット戦役の際に、ブラウンシュヴァイク公爵側につかず、いち早くローエングラム侯爵ラインハルト陣営に組したことから、ラインハルトの信頼を得ていました。
ヒルダは、今の時期は戦争ではなく内政に力を入れるべきであることを強調しました。また、ここてヒルダは、自由惑星同盟との関係に関し、自身の考えを披瀝しています。
すなわち、
「人間の集団が結束するためには、どうしても必要なものがあります。(それは)敵ですわ」、「閣下にはお分かりでございます。閣下と閣下を支持する民衆にとって、必要な敵とは、自由惑星同盟ではなく、ゴールデンバウム王朝であると」。
ヒルダも自由惑星同盟のヤンと同様、ラインハルトと自由惑星同盟の共存の可能性を考えていたのではないか、そう匂わせるやり取りだったと思います。
ここで学んだのは、仮想敵の有効性でした。
確かに、人類史上、強力な集団が出来上がる際には、必ず「敵」が居たように思います。中世十字軍時代のキリスト教とイスラム教のお互いの関係、諸外国に対する明治政府、など。そもそも日本国も含む国民国家は、国境を設定して内と外を決めている時点で、自分とそれ以外(広義の敵)を作っているということだと思います。
そのように、対峙する敵を「敢えて」作ることで、集団としての結束をより強化できるということは、政治の世界では一つの有効な手段になっている感があります。いわゆる水戸黄門のような勧善懲悪の世界で、世の中に完全な「悪」が存在する、そしてそれに対峙する自分たちが「正義」だ、とする考え方です。単純で分かりやすく、正義側に感情移入することで気持ち良い感覚を持てるため、人気の手段なのだろうと思います。
ただ、政治やビジネスの一手段として、大人に対して使われるレベルであればよいのですが、子供の教育という強力な手段を用いて、歴史や人種・遺伝子レベルまで因果関係を作り上げ、不倶戴天の敵同士のように演出するのはやりすぎではないか、とも思います。※例はあえて挙げません。
ところで、敵がいないと人間が結束できないとしても、敵が人間である必要はないように思います。先史時代にはコントロール不能な大自然がある意味「敵」だったでしょうし(一方で自然が「神」になることもありますが)、現代ではコロナウイルスのような疫病や地球温暖化が団結して対処すべき「敵」だと言えます。そういった、人間以外の脅威を仮想敵とみなして団結することの有意さの方をこそ、今後の子供たちに伝えていく必要があるのではないかと思います。
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