2021年10月17日日曜日

アドリアン・ルビンスキー「ある人間を自分の思い通りにしたければ、相手をある状況に追い込み、行動の自由を奪い、選択肢を少なくすればよい」(本伝第29話)

フェザーン自治領主、ルビンスキーの言葉が続きます。

銀河帝国と自由惑星同盟の共倒れ策から、銀河帝国による宇宙統一に舵を切ったフェザーン。ルビンスキーは手始めに、銀河帝国にイゼルローン要塞を攻略させるよう動きます。しかし、イゼルローン要塞には、自由惑星同盟軍最高の智将ヤン・ウェンリーがいて、容易に攻略はできません。

そこで、ルビンスキーが首席秘書官ルパート・ケッセルリンクに指示した策は、ヤンを短期間でも良いからイゼルローン要塞から遠ざけることでした。

ケッセルリンクはこの策を実現するため、フェザーンに駐在している自由惑星同盟弁務官ヘンスローを呼びつけて脅します。フェザーンへの債務返済が滞っていることを盾に、政治的安定を脅かす存在になりうるヤンの動きを何らかの形で封じるよう迫ったのです。ヘンスローは裏の事情は全く把握していなかったと思われますが、ケッセルリンクの要請に応じる他ありませんでした。※もっとも、本国にいる評議会議長トリューニヒトからすると、渡りに船の申し出だったかもしれませんが。

さて、首尾良く成功した交渉の顛末を、ケッセルリンクは笑いながらルビンスキーに報告しますが、ここでルビンスキーは教育的指導を行います。すなわち、「君の交渉術が優れていたのではない」と、ケッセルリンクの慢心に釘をさしながら、次のように述べたのです。

「ある人間を自分の思い通りにしたければ、相手をある状況に追い込み、行動の自由を奪い、選択肢を少なくすればよい」

アドリアン・ルビンスキー「ある人間を自分の思い通りにしたければ、相手をある状況に追い込み、行動の自由を奪い、選択肢を少なくすればよい」(本伝第29話)
『銀河英雄伝説』DVD 本伝第29話 (C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっふ・サントリーより引用

ここで学んだのは、逆説的ですが、自由になるためには選択肢が必要、ということでした。

ルビンスキーの言う通り、人間は選択肢がないと、そこにしがみつくしかありません。ヘンスローにとって、自身の選択肢は自由惑星同盟の現政権にしがみついて生き残ることしかありませんでした。その彼にとって、フェザーンの厚意を失って自由惑星同盟が財政的に破綻することは、個人の破滅に直結します。そのため、彼はケッセルリンクの要請に従わざるを得ませんでした。

しかし、ヘンスローが才覚豊かな弁務官で、現政権に固執する必要がなく、様々な選択肢をもっていたら、こんなことにはならなかった可能性があります。同盟を追われたとしても、帝国に亡命すればよいのですから。※個人の心情で、それが容易ではない可能性ももちろんあります。ヤンの場合がそうです。

現代のビジネスや勉学の世界でも同じことが言えると思います。一つに打ち込むことも大事なのですが、先の見通せない世界において、自身の道を一本に絞ることは大変危険です。終身雇用の考え方が崩れたこともあり、一つの会社に就社することも危険になりつつあります。選択を誤ってブラック企業に就職してしまったり、ホワイト企業のはずなのに人間関係の縺れからブラック的な働き方を強制された時、選択肢がなければ逃げることもままなりません。

そのため、スキル、会社、地域、それらを一つに固定させて人生を進めるのではなく、万が一の際にそれらを一つでも変更できるように備えておく必要があります。そうすれば、会社に駒として酷使される可能性も減りますし、ルビンスキーのような策士に自身の人生を利用されることもなくなるのでは、と思います。

※この後、ヘンスローだけでなく、同様の方法で、技術総監シャフト大将、シューマッハ大佐、ランズベルク伯爵、ハイドリッヒ・ラングといった面々が、ルビンスキーにより人生を奪われてしまいます。

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