ローエングラム侯爵ラインハルトの民主的改革によって銀河帝国が強化されていく一方、自由惑星同盟はクーデターによる軍部の失墜と政治屋権力の強化により国家として弱体化していました。
そんな中、帝国と同盟の勢力バランスの均衡を常に図ってきたフェザーンの方針が変わります。(正確に言うと、フェザーンの自治領主ルビンスキーの方針が変わります)。従来は均衡させて共倒れを目指すという方針でしたが、帝国に協力して同盟を滅亡させ、裏側で帝国を経済的を乗っ取るというのが、ルビンスキーの新しい方針でした。
しかし、この新方針は、フェザーン設立の影の立役者(かつ首謀者)である地球教首脳陣の許可を完全には得ていません。というのも、もともとフェザーンは地球教による神権体制を実現するために設立された都市国家でした。ところが、ルビンスキーの新方針は、政治権力をラインハルトの下に集中させて永続させる前提であるため、地球教の思惑と合致しないのです。
そういった思惑の不一致はあるものの、地球教に対して方針変更を説明しないわけにはいきません。ルビンスキーはフェザーンに駐在する司教デグスビイが自治領府にを訪れた際に、共倒れではなくラインハルトに宇宙を統一させることの利点を、次のように述べたのでした。
「権力は集中すればするほど、小さな部分を押さえることによって全体を支配できます」
つまり、統一後にラインハルトを何らかの方法で押さえてしまえば、労せず欲しいものが手に入る、という論法です。彼らの思惑の不一致は、この後の「欲しいもの」の違いでしたので(ルビンスキーは経済支配、地球教は神権政治)、そこに至るプロセスについては一致することができたのでした。
ここで学んだのは、最小限の努力で最大の効果を上げることを常に心掛ける、ということでした。
フェザーンは商業都市であるため、特に自治領主のルビンスキーが自身の息子ルパート・ケッセルリンクに教え込む内容は、経済的合理性を考慮したものが多いです。上記の学びも、言葉にすると当たり前のように聞こえますが、帝国と同盟の勢力関係を題材に、とても分かりやすく説明されていて、当時中学生だった私は「なるほど」と思ったものです。
ロールプレイングゲームなどでは、順々に敵を倒していって、最後に一番強い敵を倒すとハッピーエンドになることが多いです。しかしながら、実際の人生では、最後のハードルが一番高いとは限りませんし、与えられた順に越えていく必要もありません。むしろ、一番大事な相手を押さえたら、それで万事うまくいくことだって、少なくありません。
近年、扱える情報量が昔より爆発的に増えた結果、使える時間が相対的に少なくなっていますので、寿命が延びているとはいえ、時間を大切にしなければなりません。そのため、愚直に努力を積み上げるだけでなく、ルビンスキーのように「どうしたら最短距離で目的にたどり着けるか」を考える必要性が大きくなってきていると感じています。
そこで重要になるのが、「何を押さえれば良いのか」「どうやってそこまでたどり着くのか」という、目的志向と戦略のストーリーだと思います。ルビンスキーは目的を「ラインハルトによる宇宙の統一とフェザーンによる経済支配」に置き、戦略ストーリーとして「イゼルローン要塞の陥落」と「皇帝の同盟への亡命」を組み立てました。最終的にルビンスキーの目論見は叶わなかったとはいえ、このルビンスキーの計画に従って、当時は帝国も同盟も動かされていた、ということが、とても重要なのだと思います。
0 件のコメント:
コメントを投稿