ジークフリート・キルヒアイスが亡くなってから、銀河帝国ではナンバー2の存在がいなくなり、今は疾風ウォルフことミッターマイヤー提督と両目の色が異なる(ヘテロクロミア)ロイエンタール提督の二人が、「双璧」と称されていました。
ミッターマイヤーは愛妻家、他方のロイエンタールは女性に冷酷、と、これに限らず何事につけ正反対の彼らですが、逆にウマが合うのか、自他ともに認める親友同士です。
彼らが知り合ったのはお互い軍人になってからです。知り合って程なく、惑星カプチェランカで同盟軍に包囲され、間一髪助かった後に二人は祝杯を挙げますが、その際にロイエンタールは暗い過去、自身の生い立ちについて口を滑らせてしまいます。そのエピソードは、彼の女性に対する冷酷さのルーツになっていたのでした。
友人関係を崩しかねない、非常に暗くつらい話をロイエンタールはしてしまったのですが、それを聞いた翌日の朝のミッターマイヤーの一言が、彼らの親友としての絆を深めたのだと思います。
「夕べは酒の勢いでつまらんことを言った。忘れてくれるとありがたい」。
「なんのことだ、まるで覚えていない」。
ここで学んだのは、言動一致が人を引き寄せる、ということでした。
ミッターマイヤーがロイエンタールの話を忘れているわけでは絶対にないのですが、これ以降、彼等の会話でこの件が話題に上がることはありませんでした。そのことが、基本的に人を信用しないロイエンタールの心を更に溶かしたのだと思います。人間同士はモノではないので、お互いの記憶や考えていることを正確に知ることはできません。そのため、外に見える言葉と行動でしか、相手の真実を測ることができません。
ミッターマイヤーが覚えていないと言ってくれたこと、そしてそれを実証するかのように二度と話題にしないこと、この言動一致がとても重要なのだと思います。このことが、ミッターマイヤーがロイエンタールだけでなく、本当に多くの人間から信頼される理由なのだと思います。
そして、もう一つの学びが、本当にお互いなんでも話せる相手の大切さ、です。
ロイエンタールはこの一件で、どんな話をしてもミッターマイヤーは受け入れてくれることを知りました。ミッターマイヤーはロイエンタールにとって、彼の中に渦巻く暗い部分の捌け口になりました。しかし、数年後、ロイエンタールとミッターマイヤーは離れ離れになり、最終的にロイエンタールは良からぬ方向へ進んでしまいます。その時にロイエンタールの傍らにいたのはベルゲングリューンでしたが、ベルゲングリューンはミッターマイヤーほど対等な捌け口にはなりえませんでした。
たった一人の人物が傍にいるかいないかで、その人の人生が大きく変わる。そんなことを学んだワンシーンだったと思います。
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