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2022年1月10日月曜日

イワン・コーネフ「誰でも悲観論より楽観論を好むものさ」(本伝第33話)

ヤン・ウェンリーが首都星ハイネセンで査問会から解放されつつある頃、イゼルローン要塞は危機的状況にありました。銀河帝国軍がケンプ大将を総司令官、ミュラー大将を副司令官に任じ、ワープエンジンを取り付けたガイエスブルク要塞を用いて、大艦隊をイゼルローン攻略に派遣したのです。

ヤンが不在の中、イゼルローンでは代理を務めるキャゼルヌが指揮を執っていましたが、いかんせんキャゼルヌは事務方の人間で、実戦経験がありません。シェーンコップ、アッテンボロー、グエン・バン・ヒューといった歴戦のつわもの達をうまく統括できませんでした。その結果、要塞完成以来傷一つついていなかった防御層に敵要塞の主砲を撃ち込まれるだけでなく、手薄になった背面からの攻撃で艦砲に外壁を破られるなど、あと一歩で要塞が墜ちる、というところまで迫られてしまっていました。

士気が落ちつつある中、唯一の望みは首都星ハイネセンからのヤンの帰還と増援です。すでにこの時、キャゼルヌはハイネセンに敵襲の報は伝えていましたから、時間が稼げれば増援が来るはずでした。しかし、問題はその時間でした。ハイネセンからイゼルローン要塞に艦隊が到着するには、急いでも4週間かかります。形勢が不利な今の状況下で、ひと月近く持ちこたえなければならない。副参謀長パトリチェフが要塞内放送で全軍を鼓舞する中、その大変さを実感している空戦隊長の二人(ポプランとイワン・コーネフ)は愚痴をこぼしあうのでした。

ポプラン「パトリチェフのおっさんもよく言うぜ。(中略)ヤン提督が帰還する前にイゼルローンが墜ちている可能性を無視している」。

イワン・コーネフ「誰でも悲観論より楽観論を好むものさ」。

イワン・コーネフ「誰でも悲観論より楽観論を好むものさ」(本伝第33話)
『銀河英雄伝説』DVD 本伝第33話 (C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっふ・サントリーより引用

ここで学んだのは、嘘をついてまで維持すべき士気の重要性です。パトリチェフは、ヤンがいつ帰還するのか(そもそも帰還するのかすら)不明な状況にも関わらず、それを隠して「我々は勝利に近づいている」と全軍を鼓舞しています。そこに現実をよく知るポプランが嚙みつくわけですが、ここではイワン・コーネフの見解の方が理にかなっていたと思います。この段階で士気が乱れ投降者や離脱者が出てしまえば、ヤンが到着する前に軍が瓦解していた可能性が高いからです。

同様の状況、つまり、先が見えない中、何かを拠り所にして(時として他人や自分に嘘をついてでも)とにかく頑張らねばならない状況というのは、人生の中で何度か遭遇するものだと思います。中国の三国志の世界でも、魏の英雄曹操が、行軍中に水不足で兵士の士気がダダ下がりの中、「もうすぐ梅林がある」と嘘をついて乗り切ったという逸話があります。こういった場面で希望を捨てずひと踏ん張りできたかどうかで、その人の人生はかなり変わることになると思います。

もう一つの学びは、ここの文脈と若干異なりますが、専門家の重要性です。

ヤンは、今の時期に帝国軍が攻めてくることは「理論上」確率が低いと見たため、事務方のキャゼルヌに後を任せてハイネセンに向かいました。平時であれば最良の選択肢だったわけですが、あいにく予想に反して帝国軍が攻めてきました。(フェザーンがイゼルローンからヤンを遠ざけて陥落させようとしたので、当たり前といえば当たり前なのですが…)

そして、残念ながらキャゼルヌは軍事面でうまく統率できないことが、アニメでも克明に表現されています。シェーンコップに好き勝手されて呆然とするキャゼルヌの姿が描かれているのですが、もちろん本人のせいではありません。他方で、ヤンは軍事面、特に専門家を統率するという面で、稀にみる専門家です。そして、この状況を丸く収めたのは、ヤンと同様に軍事および統率面で一目置かれているメルカッツ提督でした。※後に、メルカッツ提督は同盟崩壊後に「動くシャーウッドの森」の指揮をヤンから託されます。

このエピソードは、いかに適材適所が大切か、専門家が欠けることがいかに致命的か、ということを教えてくれていると思います。

2021年5月16日日曜日

ユリアン・ミンツ「兵士は楽でしょうけど、司令官は苦労ですね」(本伝第19話)

自由惑星同盟内でクブルスリー統合作戦本部長暗殺未遂事件が発生したこととほぼ時を同じくして、同盟領の4つの惑星系(ネプティス、カッファー、パルメレンド、シャンプール)で同時に反乱が発生しました。※銀河帝国のローエングラム侯ラインハルトの計略によるものです。

これらの4つの反乱に対して、新たに統合作戦本部長の座についてドーソン大将は、年下で同じ大将位にあるヤン・ウェンリーをこき使うため、イゼルローン駐留軍の1艦隊のみで対応するよう命じます。

さすがに1艦隊で全て制圧させるような命令が来ると想定していなかったヤンは、4つの反乱をいかに効率よく各個撃破するか、について、その場に居合わせたユリアン(ヤンの養子。戦争孤児)、キャゼルヌと話合いますが、最終的に「同じ同盟軍なので、そこまでのことはしたくない。なるべく戦わずに済む方法を考えて、できれば相手の降伏にもっていけるようにしたい」と結論付けます。その結論に対するユリアンの反応が、「兵士は楽でしょうけど、司令官は苦労ですね」でした。

ユリアン・ミンツ「兵士は楽でしょうけど、司令官は苦労ですね」(本伝第19話)
『銀河英雄伝説』DVD 本伝第19話 (C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっふ・サントリーより引用

ユリアンの感想に対するヤンの言葉は、当時の同盟軍だけでなく、現代で頑張っているビジネスマンにとっても、最大限の皮肉がこもった言葉になりました。曰く、「その通り。けれども、世間では、兵士にも苦労をかける司令官の方が、自分も苦労していると思うものなのさ」。

ここでの学びは、表に見えるものだけでは、リーダーの能力を評価しないこと、です。ここはとても良く間違えられるところなので、丁寧に説明したいと思います。

何事も一番良い状況なのは、「トラブルが起きないように事前に手を打ち、起きた際も最小限の対応で済むよう事前に策を講じておく」ことであり、それができるリーダー(リーダータイプAと仮に設定します)が本来は望ましいリーダーであるはずです。

他方で、トラブルが起きた際に周りを巻き込みながら最大限努力をして鎮めるタイプのリーダー(リーダータイプBとします)は、対応力は評価できるものの、リーダータイプAのリーダーよりも、組織としては一段落ちる評価をするのが妥当でしょう。そして、何も事前の手を打てず、トラブル時に対処もできないリーダー(リーダータイプCとします)が、一番評価が低くなるのは、異論の余地がないと思います。

問題は、トラブルがない状態の場合が続いたとして、それが「事前に手を打って保たれた平和」なのか、「ただ何も起きないだけの平和」なのかが区別がつかない、という点です。

状況をまとめると、平時(トラブルがない期間)は、

 リーダータイプA:事前に対処して平和を作っている
 リーダータイプB:何もしていない、しかし、見た目の結果はAと一緒
 リーダータイプC:何もしていない、しかし、見た目の結果はAと一緒

ということになるため、本来はタイプAが最も評価されるべきですが、見た目には違いが分からないため、評価に差をつけるのは表面上は困難です。

有事(トラブル発生時)については、

 リーダータイプA:最小限の対応で沈めている
 リーダータイプB:最大限の努力で対応、Aより頑張っているように見える
 リーダータイプC:対応できない

となります。有事にBを評価しがちなのは、Aの事前策が見えないからです。

総合評価となると、平時は差が出ないため、有事に目立つ方、つまりリーダータイプBが「一般的に」評価されると思います。そのため、ヤン(ご本人はリーダータイプA)の言うように、「世間では、兵士にも苦労をかける司令官の方が、自分も苦労していると思うもの」という皮肉につながるのです。

そして、リーダータイプAが評価されるのは、悲しいことに、彼がいなくなってから、ということが断然多いと思います。今まで事前に潰されてきたトラブルの芽が、リーダータイプAの人間がいなくなった途端に、トラブルとして噴出する、という事態は、容易に想像できます。まさに、失って初めてその大切さに気づく、ということです。

従って、そのようなリーダータイプAのリーダーを組織にとどめておくためには、表面的な事象だけでなく、「なぜこの平和が保たれているのか」について、より深く洞察する必要があるのだと思います。

2021年4月3日土曜日

アレックス・キャゼルヌ「誰も責任を追及されない社会よりまともってもんだ」(本伝第16話)

自由惑星同盟史上最大の銀河帝国侵攻作戦(最後の最終決戦の場の名を借りて、アムリッツァ星域会戦と呼ばれる)は、同盟軍の惨敗に終わりました。約3000万人を動員して2000万人が戦死し、8人の艦隊司令官のうち5人が戦死か捕虜となりました。一方の帝国軍は、戦死者は200万人、艦隊司令官の犠牲はゼロです。

戦争を可決した最高評議会議員は、反対した3名(トリューニヒト、レベロ、ホワン・ルイ)以外は辞職。軍部も、統合作戦本部長シドニー・シトレ元帥、最高司令官ラザール・ロボス元帥ともに引退となり、評議会に作戦案を持ち込んだフォーク准将は病院療養となっています。

そんな中、作戦の後方補給担当だったアレックス・キャゼルヌ(ヤンの士官学校の先輩)も、補給失敗の責任から、地方の補給基地の司令官職に左遷されることになりました。もっとも、補給の失敗といっても、帝国軍のラインハルトが仕掛けた焦土作戦によるものであり、彼自身の落ち度ではありません。

そう分かっていながらも、「誰も責任を追及されない社会よりまともってもんだ」と言えるキャゼルヌは、良識のある大人であり、同盟軍の宝であり、そしてヤンや後輩アッテンボローにとって道標となる先輩なのだと思います。

アレックス・キャゼルヌ「誰も責任を追及されない社会よりまともってもんだ」(本伝第16話)
『銀河英雄伝説』DVD 本伝第16話 (C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっふ・サントリーより引用

さて、ここでキャゼルヌが言及している「誰も責任を追及されない社会」ですが、恐らく銀河帝国の貴族社会のことを指しているのだと思います。貴族社会では、貴族は何をやっても責任を取らず、逆に平民は何もしなくても責任を取らされました。自由惑星同盟は、今のところそういう社会ではなく、平等に責任が追及される社会でした。

しかしながら、このアムリッツァ星域会戦の惨敗は、同盟の社会構造に亀裂を生じさせます。トリューニヒト閥の政治家達が貴族のようにふるまう時代の呼び水となったからです。他方で銀河帝国の方は、ラインハルトによって貴族社会が崩壊し、平等に責任が追及される社会に改革されていきました。

ここでの学びは、誰かが不当に守られる社会・組織に属するな、という点です。これは何も国家単位の大きな話だけではなく、学校やビジネスの世界にも言えることだと思います。どこの世界でも、責任を取らない誰かが、組織構造上放置(あるいは優遇)されている場合があります。これはその本人の資質の問題もありますが、組織構造そのものに致命的な欠陥があるということだと思います。そして、その組織構造上の欠陥は、長い時間をかけて醸成されたものが多く、個人の力ではたいていどうしようもないことが多いです。

責任が平等でない社会・組織は、守られる側にとっても、そうでない側にとっても不幸な社会・組織です。守られる側は、それが当たり前になり、その社会・組織以外で生きていく術を失っていきます。居心地が良いだけに、自分の力でそこから抜け出すことは困難です。逆にそうでない側にとっては、身に覚えのない責任を追及されることになります。

そんな社会・組織に属していると感じたら、あるいはそのような社会・組織になりつつある場合は、一刻も早くそこから抜け出す算段をすべきだと思います。

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