帝国の名門であるマリーンドルフ伯爵家の命運をかけ、伯爵家の長女であるヒルダは幼帝エルウィン・ヨーゼフ2世を擁立するラインハルトを訪問します。(まだ勃発していませんが)帝国を二分する戦いになった際に、マリーンドルフ家はラインハルトにつくことを明言しに来たのでした。
貴族の助力など端から当てにしていなかったラインハルトですが、この情勢下にわざわざ味方になると言いに来るヒルダの識見に関心を持ち、協力要請を受け入れることとなります。
しかし、ここまでで帰らないのが、ヒルダの凄いところです。大して有利な状況になかったにも関わらず、マリーンドルフ家の家紋と領地を保証する公文書を、ラインハルトから入手することに成功してしまいます。恐らく、貴族の中で一番最初に動いたことが、功を奏したのだと思います。
更に、ヒルダの才覚が光輝いたのが、次の一言です。ラインハルトから「あなたが取りなしてくれる他の貴族の方々にも、同じような保証書が必要か」と問われ、即座に「そうしたものがたくさんあってはお邪魔でございましょう」と切り返しました。この時のヒルダの顔は策士そのもので、オーベルシュタインにも素で勝てるのではないかと思わせるほど才知に満ちたものだったと思います。
ここでの学びは、交渉の際に、相手がYesと言う量のラインを見極める、ということです。
ラインハルトにとって、マリーンドルフ家のような中規模の貴族の助力というのは、取るに足らないものだったと思います。ヒルダの才覚は思わぬ誤算というべきで、そもそも大して計算に入れていなかったはずです。また、マリーンドルフ家の家門と領土の保証も、巨大な勢力ではありませんので、受け入れ可能な条件だったと考えられます。
しかし、多数の貴族の領土となると、話は別です。ラインハルトの大義名分は、(この時はまだ表に出てきてはいませんが)門閥貴族から平民を開放することにあります。その彼が、多くの貴族の領土を保証してしまうことは、自身の大義を否定することになってしまいます。そこまで読み切っていたため、ヒルダはマリーンドルフ家だけ保証すれば良い、と言ったのです。
「多数の貴族」への保証は受け入れないが、「ただ一つの貴族」の保証なら間違いなく受け入れ可能。だからその「ただ一つの貴族」になるために、誰よりも早く交渉に行く、というロジックでヒルダは動き、そして成功させました。
同様の状況は、現代社会でも起こりうると思います。誰でも、「一つや二つなら許せるけど、量が多くなると嫌」というものがあると思います。そこをうまく読み切って、一つ目や二つ目までを要求するように心がければ、交渉事は普段よりうまくいくのではないでしょうか。
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