フォーク准将の作戦案の下、自由惑星同盟軍による銀河帝国への大遠征が始まりました。迎え撃つ銀河帝国軍の司令官ラインハルトは、自由惑星同盟近郊の帝国領から、物資をすべて引き上げるよう、命令を下します。
民衆に同盟軍の物資を食いつぶさせ、飢餓状態に陥らせた上で一網打尽にするという、壮大な戦略構想からの判断でした。また、自由惑星同盟は「民衆の帝国圧政からの解放」を旗印にしているため、民衆に物資を供給するという選択肢以外に彼らが取りうるものはなく、同時に民衆が餓えに苦しむこともないという読みが背景にあります。
このあたりの冷静かつ壮大で無慈悲な戦略が、ラインハルト本人によるものなのか、参謀として迎えたオーベルシュタインのものによるのかは、意見が分かれるところだと思います。
民衆の救済を旗印にして無策に進行する同盟軍と、ラインハルトの統率の下に敵を罠に陥れようとする帝国軍。しかし、物資引き上げ対象となった民衆にとっては、両軍の腹積もりなど全く関係のないものでした。それが、農民たちの「おら、べつに解放なんかしてもらいたくねえ」という一言に、如実に表れています。「ここの領主様はいいお方だ」。
ここでの学びは、「自分が持っているものを、相手が欲しがるとは限らない」、という、当たり前であるがゆえに忘れがちな不文律です。この勘違いは、大きな悲劇を生みます。宗教戦争は悲惨な前例です。
また、もう一つの学びは、情報難民に陥った民衆たちの啓蒙の難しさです。主従関係を結び、生存権を保証され、外の世界の情報から一度断絶されてしまうと、自分自身で考えることをやめてしまいます。その状況に陥って長い期間が過ぎてしまうと、今ある環境を守る以外のことを考えなくなるのではないでしょうか。
それは何も、小説上だけの話でも、昔の話でもありません。現代のビジネスでも、社内のあまりに前近代的な手法に慣れすぎて、新しい手法を取り入れることを躊躇する、ということはよくあることです。そして、そういった企業はたいてい消えていく運命にあると思います。
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