自由惑星同盟軍の物資輸送団は、帝国軍キルヒアイス艦隊による奇襲で、全滅してしまいます。前線と占領地の物資はいよいよ枯渇し、帝国領の救済を旗印にしていたはずなのに、同盟軍は占領地の食料を略奪する羽目に陥ります。前線の民衆との信頼関係は、脆くも崩れ去ったのです。
本件は、ただ一度の戦争に負けて貴重な将帥や艦隊を失うという意味だけでなく、自由惑星同盟の大きなターニングポイント(もちろん滅亡に向けての)になったと思います。それを見事に表現したのが、フェザーン自治領主アドリアン・ルビンスキーの言葉です。「帝国の民衆は、これまで同盟に対して外敵という認識をもっていなかった。そこに敵意を植え付けたのだ。これは大きい」。
『銀河英雄伝説』DVD 本伝第14話 (C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっ ふ・サントリーより引用
ここでの学びは、複数の命題を同時に解決する策が良策、という点です。なかなか一度読む(観る)だけでは解読が難しいこの場面ですが、帝国軍のラインハルトにとって、宇宙を統一するという究極の目的を達成するためには、いくつか対処すべき課題がありました。
課題A:自由惑星同盟の艦隊戦力と人的将来性を削ぐこと
課題B:帝都以外の帝国領民衆の心理的遠心力を抑え込むこと
課題C:人間本来の「自由」の願望を抑え込むこと
課題Aは、戦いに勝ち各艦隊の旗艦を討ち取ることで達成可能です。実際、この戦いに参加した艦隊のほとんどの司令官が死亡し、今後自由惑星同盟軍は人材の枯渇に悩まされることになります。(逆にそのことが、ヤン・ウェンリーの裁量の拡大にも繋がるわけですが)。
もっとも、中長期的には、課題Aよりも、課題Bと課題Cの方が銀河帝国にとって大きな課題だったと思います。これらは放っておくと専制君主制の存立基盤を失い、逆に自由惑星同盟の勢力を増長しかねないものであるためです。
また、ラインハルトと参謀長オーベルシュタインにとって、「帝国の圧政に苦しむ民衆を自らの手で解放する」という方針に立った場合、同じような可能性をもつ選択肢(この場合、自由惑星同盟)を民衆に残してしまうのは不都合だったと考えられます。
※逆に、ヤン・ウェンリーとキルヒアイスは、銀河帝国と自由惑星同盟の共存策を考えていました。キルヒアイスが生きていれば、話の流れは大きく変わったことでしょう。
これら3つの課題を、帝国軍はこのひとつの戦いで全て解決してしまいました。一石三鳥ということですが、ビジネスの世界でも同じことが言えると思います。目の前の短期的な課題でけでなく、少し視野を広げ中長期的な課題に少しでも効く対策を取ることが、結果としてビジネスの安定的な成功につながるのではないか、と思います。