2021年3月28日日曜日

ジークフリード・キルヒアイス「(怒りは)あなた自身にむけられたものです」(本伝第16話)

自由惑星同盟軍が撤退を成功させた後、銀河帝国軍の各提督達は、総司令官ラインハルトの待つ総旗艦ブリュンヒルトに集結します。そこでラインハルトは各提督をねぎらうのですが、みすみすヤンを取り逃してしまったビッテンフェルトに対しては、強く叱責します。「沙汰が決まるまで自室で謹慎せよ」。

その場では(怖くて)誰も何も言えなかったのですが、腹心のキルヒアイス提督は、場が解散した後にラインハルトの後を追い、問いただします。「何に対して怒っているのですか?」と。そして、ズバリ「(怒り)はあなた自身に向けられたものです。まんまとヤン提督に名を成さしめたあなたに」と核心を突きます。

それはその通りで、ビッテンフェルト艦隊の層が薄くなっているのを分かっていながら、ケアをしなかったのはラインハルトの落ち度だと思います。

ジークフリード・キルヒアイス「(怒りは)あなた自身にむけられたものです」(本伝第16話)
『銀河英雄伝説』DVD 本伝第16話 (C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっ ふ・サントリーより引用

ここでの学びは、意見してくれる人を大切にする、ということです。この段階でラインハルトはすでに帝国元帥にまで上り詰め、銀河帝国を手に入れる一歩手前まで来ていました。尊大になるな、というのも無理な話ですが、部下の扱いはやや雑になっていたように思います。そこに、適切なタイミングでキルヒアイスから助言が入り、色々なものをラインハルトは取り戻します。ここでもし誰も何も意見しない(あるいはできない)状況に陥っていたら、ラインハルトは最終的に勝利することはなかっただろうと思います。

ビジネスの世界でも同様で、口うるさく意見してくる上司や部下は、面倒なので遠ざけてしまいがちです。しかし、何も意見を受けないままに、自分の判断だけで進まざるを得ない状況は、とても孤独でリスクが多いものだと思います。それを避けるためには、キルヒアイスのような、信頼ができて、保身のために発言しない人間が誰かを見極め、常に意見が聞けるようにしておくことです。

2021年3月27日土曜日

フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト「わが艦隊に退却の文字はない」(本伝第16話)

銀河帝国領に奥深く侵攻していた自由惑星同盟軍は戦力分散の愚を悟り、最終決戦の場であるアムリッツァ星系に集結します。しかし、集結すると言っても集まった艦隊は、8艦隊中わずかに3艦隊。最終決戦でも、銀河帝国軍が倍以上の兵力をもって自由惑星同盟軍を挟撃し、ここに大勢は決しました。

退却戦の中で、ヤン・ウェンリー率いる第13艦隊は同盟軍主力を離脱させるべく、しんがりを務めることになります。彼には逃げ切れる目算がありました。帝国軍の包囲網の中で、一部分だけ防御の脆い部分があったからです。それは、第10艦隊のウランフ提督を敗死させたビッテンフェルト提督の艦隊でした。

ビッテンフェルト艦隊は非常に好戦的で、攻撃には無類の強さを発揮しますが、防御は不得意な性格でした。また、挟撃体制が完成する前に、第13艦隊から集中砲火を受けており、かなり消耗していました。そこをヤンの第13艦隊が突破し、難なく逃げることに成功したのです。ビッテンフェルトは「わが艦隊に退却の文字はない」という名言(?)を叫びながら応戦しましたが、全く相手になりませんでした。

フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト「わが艦隊に退却の文字はない」(第16話)
『銀河英雄伝説』DVD 本伝第16話 (C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっ ふ・サントリーより引用

ここでの学びは、適材適所が肝要、という点です。ビッテンフェルトの独特の性格、攻撃面は最強だが防衛面は脆い、というキャラクターは、帝国軍の誰もが知っている事実でした。そこにケアをしなかったのは、帝国軍、および総司令官ラインハルトの落ち度だと思います。特に、同盟軍を包囲殲滅する際に重要となる中央付近の防衛線に、傷ついた彼の艦隊を配置したのは、大失敗と言わざるを得ません。参謀長オーベルシュタインが途中で気づき、キルヒアイスに援護させましたが、時すでに遅し、でした。

ですが、学びとして重要なのはそこではありません。このアムリッツァ星域会戦以降、ラインハルトはビッテンフェルトの用い方を変えます。ここまでの戦いでは、他の提督と同様に通常戦力の一部としてビッテンフェルト艦隊は用いられていましたが、この戦いの後、先鋒か、あるいはトドメを刺す役回りか、どちらかに特化した用い方がされるようになります。それは、彼の性格を十二分に生かした任用だと言えるでしょう。

2021年3月21日日曜日

ボロディン中将「そうか…」(本伝第15話)

自由惑星同盟軍の銀河帝国領への侵攻と占領、同盟軍の前線補給船団への帝国軍の奇襲、そして帝国軍の大攻勢は、その後の最終決戦の場所の名前をとって、「アムリッツァ星域会戦」という総称で呼ばれています。そして、このアムリッツァ星域会戦では、同盟軍の多くの有能な指揮官が失われました。特に大きかったのは、第10艦隊のウランフ提督と、第12艦隊のボロディン提督だったと思います。

ボロディン提督の第12艦隊は、帝国軍のルッツ提督の艦隊に急襲されていました。ルッツ提督はビッテンフェルト提督ほど好戦的な提督ではありませんが、防衛戦よりも攻撃側に回った方が能力を発揮する提督だったようです。そのため、第12艦隊も善戦したものの、旗艦以下数隻のみを残す状態にまで追い込まれてしまいました。

戦況の報告を受けた際のボロディン提督の行動は、潔いものでした。彼は「そうか…」と一言発した後、ブラスターで自らの命を絶ったのです。恐らく、彼本人としては降伏という選択肢は取れないけれども、自身がいなくなることで、部下たちに選択の自由を渡した、ということだと思います。自身の武人の美学を全うするため艦隊ごと玉砕しようとした、かつてのイゼルローン駐留艦隊司令官ゼークト大将とは全く正反対の人間性です。

ボロディン中将「そうか…」(本伝第15話)
『銀河英雄伝説』DVD 本伝第15話 (C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっ ふ・サントリーより引用

ここでの学びは、良将ほど失いやすい、ということです。ビジネスの世界でも、責任感が強く有能な人材ほど、仕事が集中し消耗し、表舞台から去ることが多いと思います。逆に、責任感に乏しく誰からも仕事を任されない人間が、フリーライダーとして会社にしがみつき、人が稼いだお金で生きている、ということも稀ではありません。

この問題の難しいところは、普通の人間には、責任逃れも責任を負うことも、どちらの選択も実はしづらい、ということだと思います。責任逃れを最初から選択することは心情的に難しいですし(卑怯者と言われ続ける)、責任を負った際の未来が消耗と挫折であると分かってしまえば、その選択も積極的に採りづらい。といって、状況に応じて使い分ける、ということも難しい。一度「卑怯者」あるいは「責任感の人」とレッテルを貼られると、それ以外の行動はしづらいものだからです。

ボロディン提督は自身の責任を全うし、表舞台から去っていきました。最後まで「責任感の人」でいたわけですが、もし生き残っていたら、後に帝国軍と単身で相対するヤン・ウェンリーの助けになったはずです。そう思うと、同盟軍の上層部は、「玉砕や自殺は厳禁、逃亡か降伏をせよ」という訓令でも出していれば(絶対に出しませんが)、と思ってしまいます。

2021年3月20日土曜日

ラザール・ロボス元帥「このまま引き下がるわけにはいかんのだ」(本伝第15話)

自由惑星同盟軍は、補給路を断たれた後に帝国軍艦隊に急襲され、どの艦隊も苦戦の中にありました。善戦して艦隊を維持しているのは、ヤンの第13艦隊、ビュコックの第5艦隊、アップルトンの第8艦隊ぐらいで、残りの第3、第7、第9、第10、第12艦隊は壊滅的な被害を被っていました。※アップルトン艦隊が生き残っていたのは、本人の能力という面もありますが、相手がそれほど好戦的ではない芸術家提督メックリンガーの艦隊だったからだと、個人的には思います。

総参謀長のグリーンヒル大将は、各艦隊の状況を鑑み、被害拡大をこの段階で食い止めるため、全面撤退を総司令官ロボス元帥に具申します。「我々は、敵に乗せられたのです。この上は、イゼルローン要塞に早急に撤退すべきです」。

しかし、ロボス元帥の答えは、意外なものでした。「全艦、アムリッツァ星域に集結せよ」。この後に及んで、まだ戦いを続ける、という判断でした。「このまま引き下がるわけにはいかんのだ」。

ロボス「このまま引き下がるわけにはいかんのだ」(本伝第15話)
『銀河英雄伝説』DVD 本伝第15話 (C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっ ふ・サントリーより引用

ここでの学びは、率いる人間の器量で勝敗が決まる、ということだと思います。同盟軍の失敗は、このロボス元帥を総司令官にしたことでしょう。というより、彼やフォーク准将のような人間が、重職についてしまうという構造自体が、組織的欠陥なのではないか、と思います。ビジネスなどの現実世界で、部下として同じ状況に遭遇したら、とにかく身を守って生き残ることを重視すべきだと思います。

もう一つは、こぼしたミルクは戻らない、ということです。損切り、という言葉がありますが、同盟軍はここで損切りして撤退すれば、少なくとも3つの艦隊は無事に帰還でき、残りの5艦隊も半数程度は生き残れたのではないでしょうか。しかし、ここで戦いを続ける判断をした結果、生き残った艦隊は第5、第13艦隊の2つのみになってしまいました。いわゆるサンクコスト(埋没費用。ここまでに犠牲にしたコスト)にとらわれてしまい、また「メンツ」にこだわってしまったが故に、大事な判断を誤ってしまったのです。

2021年3月14日日曜日

ウランフ「傷ついた味方艦を一隻でも多く逃がすんだ」(本伝第15話)

ヤンがケンプ艦隊からの逃亡に成功した頃、帝国軍艦隊で最も好戦的なビッテンフェルト提督と遭遇していたのが、ウランフ提督の第10艦隊でした。ウランフもヤンと同様、補給路を断たれたことによる同盟軍の不利に気づいていましたので、撤退準備もしていたし、食料はセーブ気味に消費していたはずです。しかしながら、こちらは同盟軍よりも帝国軍の方が数で上回るという状況でした。そのため、戦況は五分五分だったものの、徐々にウランフ艦隊の方が押され始めます。

ここで、第10艦隊参謀長のチェンが冷静な判断のもと、二つの選択肢をウランフに提示します。すなわち、降伏か、逃亡か、です。ウランフは「降伏は性に合わん。逃げるとしよう」ということで、ヤンと同様に逃亡を選択しますが、既にビッテンフェルトに全包囲されていましたので、彼らには紡錘陣形による中央突破しか手段がありませんでした。

ウランフは自身の旗艦がしんがりを務める判断を下します。傷ついた味方艦を一隻でも多く逃がすんだ」。彼の勇戦の結果、全体の5割は逃亡に成功、後にヤンの第13艦隊と合流し、自由惑星同盟最後の希望になるのですが、残念ながらウランフ自体はここで戦死してしまいました。
ウランフ「傷ついた味方艦を一隻でも多く逃がすんだ」(本伝第15話)
『銀河英雄伝説』DVD 本伝第15話 (C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっ ふ・サントリーより引用

ここでの学びの一つは、責任を全うする上官には良い部下がつく、ということだと思います。第10艦隊は非常に優秀な艦隊で、この戦いでも不利な状況にも関わらず善戦しますし、彼らのひとつ前の戦い(第3次ティアマト会戦)でも、ラインハルトをして「同盟軍にもできる奴がいる」と言わせる戦いぶりでした。それらはおそらく、艦隊司令官ウランフの人柄と責任感(この人は部下を見捨てないという信頼)によるところが大きいと思います。これはチームを率いる仕事全てに言えることではないでしょうか。

もう一つの学びは、逆に、司令官は本来格好悪くても生き残らないといけない、ということです。ここでウランフが戦死したことは、同盟軍にとって痛手でした。なぜなら、この戦い(アムリッツァ星域会戦)で、当時の11人の艦隊司令官のうち、なんと6人も失うことになるからです。生き残った司令官職のメンバーで、実戦でラインハルトの精鋭とまともに戦えるのは、ヤン、ビュコックの2人くらいになってしまいました(残り3人は、クブルスリー、パエッタ、ルグランジュ)。そのため、ここで名誉の戦死をするのではなく、ギリギリのところでシャトルに乗って逃げ出していてほしかった、と個人的には考えてしまいます。

2021年3月13日土曜日

ヤン・ウェンリー「全艦、逃げろ!」(本伝第15話)

補給を断たれ、餓えに苦しむ自由惑星同盟軍。一部艦隊(ビュコック中将の第5艦隊、ウランフ中将の第10艦隊、ヤン・ウェンリーの第13艦隊)は、作戦本部に撤退を打診するも、肝心の総司令官ロボス元帥が「昼寝中」のため、決裁を得られませんでした。

致し方なく彼らは自主的に撤退準備を始めますが、そこにラインハルト率いる帝国軍艦隊が急襲します(アムリッツァ星域会戦)。ヤン・ウェンリーの第13艦隊の星系には、元撃墜王ケンプ中将の艦隊が攻めてきました。

ヤンの艦隊は状況を察知していたため(また、幕僚たちが有能だったこともあり)、他の同盟軍艦隊よりもまだ食料に余裕がある状態だったと思われます。その甲斐があり、かつフィッシャー少将の名人芸も重なり、ケンプ艦隊に対して有利に戦いを進めることができました。

しかし、ヤン艦隊の真骨頂は、そこではありません。ヤン・ウェンリーは、ここでの戦いを、ケンプ艦隊を打ちのめすためにやっていたのではありませんでした。優位を築きケンプ艦隊が体制を整えるために後退した隙に、彼は全艦にこう命を下すのです。「全艦、逃げろ!」。彼は、逃げるために戦っていたのでした。

ヤン・ウェンリー「全艦、逃げろ!」(本伝第15話)
『銀河英雄伝説』DVD 本伝第15話 (C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっ ふ・サントリーより引用

ここでの学びの一つは、プライドを捨てる、ということです。軍人にとって、逃げることは恥と思われがちですが、ヤン・ウェンリーと彼の艦隊にとっては一つの手段にすぎませんでした。変なプライドにとらわれることなく、その都度必要な手段を選択できることは、ビジネスの世界でも必要な素養だと思います。

また、もう一つの学びは、目的志向であること、です。ヤンは最初から逃げることを目的に戦いを組み立てていました。巧みな艦隊運動で消耗戦に持ち込み、敵が後退するタイミングで離脱を図る、そのために序盤に勝利を得る、という作戦だったと思われます。目の前の戦いで勝利してしまうと、ついその勝利に溺れて更に勝利を求めてしまいそうですが、彼はそれをしませんでした。(そういう無駄な戦いを、ヤンは絶対にしませんでした)。目的が明確でそこに至る道筋があると、無駄のない行動ができる、それは戦争だけでなく、ビジネスでも同様の学びだと思います。

2021年3月12日金曜日

アレクサンドル・ビュコック「他人に命令するようなことが自分にはできるかどうか、やってみたらどうだ」(本伝第14話)

前線に補給物資を届けるはずの輸送船団が、帝国軍に殲滅させられてしまい、物資が枯渇した占領地は窮地に立たされます。自分たちが食べる物も徐々に尽きていく中、ヤン・ウェンリーとウランフ、そしてビュコックら、まともな判断力をもつ提督達は、作戦本部に撤退を申し入れます。このままの状態で帝国軍に急襲されれば、ほぼ確実に敗北するからです。

しかしながら、作戦参謀のフォーク准将は、「私なら撤退などしません」と、彼らの申し入れを一蹴します。実戦経験のないフォーク准将は、前線から離れていたこともあり、状況の切迫度が理解できませんでした。そして、この一言は歴戦の将ビュコックの堪忍袋を切ることになります。

「他人に命令するようなことが自分にはできるかどうか、やってみたらどうだ!」

ビュコック「他人に命令するようなことが自分にはできるかどうか、やってみたらどうだ」(本伝第14話)
『銀河英雄伝説』DVD 本伝第14話 (C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっ ふ・サントリーより引用

ここでの学びは、自分にできないことができる存在に対する敬意(リスペクト)の必要性、だと思います。フォーク准将は自身の経験不足を自覚しようとせず、経験豊富な前線の意見を一蹴しました。その結果、同盟軍は多く兵士の命と有能な将軍を失ってしまい、亡国への道を突き進むことになります。

極論すると、ここでフォーク准将が判断を誤ったことが、自由惑星同盟という民主主義国家の滅亡のきっかけになったとも言えます。※これだけが原因ではなく、フォークのようなイケてない存在が、遠征軍の作戦参謀という極めて重要な役割に就けてしまう世の中になってしまったこと、そのこと自体、問題なのだと思います。

また、このシーンを見た多くの方が、フォーク准将に対しネガティブな印象を受けたと思います。彼の振る舞いは、ジェシカに「(戦争を賛美する)あなたはどこにいます?」と問いかけられ、回答に窮したトリューニヒトと同様に、口先だけで行動をしない人間、そして他人を平気で死地に陥れる人間がいかに醜く見えるか、ということを象徴的に表していると思います。

もちろん、ビジネスの世界でも同様です。ただ、難しいのは、口先だけの人間は得てして、自分のことを「有言実行の人間」だと相手に思い込ませるのが得意だ、という点です。相対する側に、見抜く力が備わっていないといけません。

2021年3月7日日曜日

アドリアン・ルビンスキー「敵意を植え付けたのだ、これは大きい」(本伝第14話)

自由惑星同盟軍の物資輸送団は、帝国軍キルヒアイス艦隊による奇襲で、全滅してしまいます。前線と占領地の物資はいよいよ枯渇し、帝国領の救済を旗印にしていたはずなのに、同盟軍は占領地の食料を略奪する羽目に陥ります。前線の民衆との信頼関係は、脆くも崩れ去ったのです。

本件は、ただ一度の戦争に負けて貴重な将帥や艦隊を失うという意味だけでなく、自由惑星同盟の大きなターニングポイント(もちろん滅亡に向けての)になったと思います。それを見事に表現したのが、フェザーン自治領主アドリアン・ルビンスキーの言葉です。「帝国の民衆は、これまで同盟に対して外敵という認識をもっていなかった。そこに敵意を植え付けたのだ。これは大きい」。

アドリアン・ルビンスキー「敵意を植え付けたのだ、これは大きい」(本伝第14話)
『銀河英雄伝説』DVD 本伝第14話 (C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっ ふ・サントリーより引用

ここでの学びは、複数の命題を同時に解決する策が良策、という点です。なかなか一度読む(観る)だけでは解読が難しいこの場面ですが、帝国軍のラインハルトにとって、宇宙を統一するという究極の目的を達成するためには、いくつか対処すべき課題がありました。

 課題A:自由惑星同盟の艦隊戦力と人的将来性を削ぐこと

 課題B:帝都以外の帝国領民衆の心理的遠心力を抑え込むこと

 課題C:人間本来の「自由」の願望を抑え込むこと

課題Aは、戦いに勝ち各艦隊の旗艦を討ち取ることで達成可能です。実際、この戦いに参加した艦隊のほとんどの司令官が死亡し、今後自由惑星同盟軍は人材の枯渇に悩まされることになります。(逆にそのことが、ヤン・ウェンリーの裁量の拡大にも繋がるわけですが)。

もっとも、中長期的には、課題Aよりも、課題Bと課題Cの方が銀河帝国にとって大きな課題だったと思います。これらは放っておくと専制君主制の存立基盤を失い、逆に自由惑星同盟の勢力を増長しかねないものであるためです。

また、ラインハルトと参謀長オーベルシュタインにとって、「帝国の圧政に苦しむ民衆を自らの手で解放する」という方針に立った場合、同じような可能性をもつ選択肢(この場合、自由惑星同盟)を民衆に残してしまうのは不都合だったと考えられます。
※逆に、ヤン・ウェンリーとキルヒアイスは、銀河帝国と自由惑星同盟の共存策を考えていました。キルヒアイスが生きていれば、話の流れは大きく変わったことでしょう。

これら3つの課題を、帝国軍はこのひとつの戦いで全て解決してしまいました。一石三鳥ということですが、ビジネスの世界でも同じことが言えると思います。目の前の短期的な課題でけでなく、少し視野を広げ中長期的な課題に少しでも効く対策を取ることが、結果としてビジネスの安定的な成功につながるのではないか、と思います。

2021年3月6日土曜日

ラインハルト・フォン・ローエングラム「敵の生命線だ。お前に与えた兵力の全てをあげてこれを叩け」(本伝第14話)

自由惑星同盟軍は、前線の兵士と占拠した帝国領民衆への補給を目的として、膨大な物資を本国から前線に送ることを決定します。本国から前線まで、同盟軍の占領下にありました。そのため、補給船団はたいした護衛もつけず、本国から送り出されます。

この機会を心待ちにしていたのが、帝国軍の総司令官ラインハルトでした。彼は、今回の作戦を立てた時から、この機会が来ることを予想していたと思います。すなわち、補給船団を奇襲し、同盟軍の補給路を断つこと、そして物資の欠乏や士気の低下が限界に達した時点で全面攻勢をかけること、これが当初からの彼の戦略でした。

たかが補給船団の奇襲でしたが、彼は手を抜くことはしませんでした。むしろ、腹心のキルヒアイス提督に、彼がもつ全兵力(帝国軍で二番目に強大な艦隊)をもって討つよう命じます。「敵の生命線だ。お前に与えた兵力の全てをあげてこれを叩け」、と。

ラインハルト・フォン・ローエングラム「敵の生命線だ。お前に与えた兵力の全てをあげてこれを叩け」(本伝第14話)
『銀河英雄伝説』DVD 本伝第14話 (C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっ ふ・サントリーより引用

ここでの学びは、狙った機会に対して全力を尽くす、ということです。おそらく、この場面ではキルヒアイスでなくとも(例えばメックリンガーでも)、十分な成果を上げることができたと思われます。同盟軍(特に総司令官ロボス元帥と作戦参謀フォーク准将)は状況を甘く見て、ほとんど護衛をつけなかったからです。

しかし、ラインハルトは、念には念を押しました。なぜならば、ここで万が一失敗し、同盟軍が補給に成功してしまったら、むしろ逆に帝国軍が窮地に陥る可能性があったためです。特に、同盟領から持ち込まれる生産設備がもし帝国領の各惑星の土壌や環境とマッチし、民衆と同盟軍の関係が強固になってしまった場合、自由惑星同盟への民衆の信頼が拡大し、まだ占領下にない帝国領が離反する可能性がありました。

また、もし同盟軍側に少しでも周りを見渡せる人材がいれば、一個艦隊ぐらいの護衛をつける可能性も十分にあったと思います。そのため、ラインハルトは最も信頼するキルヒアイスにこの任を委ねたのです。

この学びは、ビジネスの世界でも当てはまります。たとえ状況的に、あるいは身体的に苦しい時期であっても、「力の入れ時」という機会が必ずあります。その時期に寝食を忘れて全力で臨めるか否かで、今後のキャリアの方向性は変わると思います。また、面白いもので、そういった「力の入れ時」は、一度経験すると次回以降なぜかその時期が感覚的に分かるようになる、そんな気がします。よって、できるだけ若い段階で、「力の入れ時」を経験しておくことをお薦めします。

2021年3月5日金曜日

ジョアン・レベロ「民衆を道具にするとは憎むべき方法だが、有効な方法であることは認めざるを得ない」(本伝第14話)

物資を引き上げられた帝国領を次々と占領「してしまった」結果、自由惑星同盟軍は前線の物資が尽きてしまいます。各現場司令官は、自身の艦隊分+占領下の民衆分の物資補給を総司令官ロボス元帥に具申しますが、その量は当初の補給計画をはるかに超えるものでした。

結局、民衆分も含めた大規模な物資補給について、自由惑星同盟の最高評議会(内閣のようなもの。今回の開戦を決定したのもこの会議)で審議にかけられます。その場での議論は、補給を行うか否か、というよりも、戦いをやめて撤退するか、補給をして戦いを続けるか、この二者択一でした。

表題の発言は、撤退派のジョアン・レベロ財務委員長のものです。「民衆を道具にするとは憎むべき方法だが、わが軍が民衆の解放と救済を旗印にしている以上、有効な方法であることは認めざるを得ない」。もともとレベロは今回の戦争に反対でしたが、帝国軍司令官であるラインハルトの戦略をきっちり読み取り、撤退を主張したのでした。まだこの時期の自由惑星同盟は、人材が尽きていなかったということだと思います。しかしながら、最高評議会は戦いの継続を決定してしまいます。

ジョアン・レベロ「民衆を道具にするとは憎むべき方法だが、有効な方法であることは認めざるを得ない」(本伝第14話)

『銀河英雄伝説』DVD 本伝第14話 (C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっ ふ・サントリーより引用

ここでの学びは、客観的に明らかに正しいことでも、感情論に負けてしまうことがある、ということだと思います。最高評議会のメンバーは、まともな理解力の持ち主であれば、レベロが言っている見通しが正しいことは分かっていたはずです。この時点でまだ勝てるという幻想を保持していたのは、総司令官のロボス元帥と作戦を立案した本人である参謀のフォーク准将くらいだったと思います。

しかし、最高評議会は「ここで戦いをやめたら恥」「次の選挙に負ける」という体面や感情論をもとに、撤退案を一蹴しました。同じような反応は、軍部側にも見られます。

つまり、我々はただ正しいことを主張するだけでは、愚行を止められないということなのだと思います。正しいことを主張しながらも、その正しさを認めた場合に傷つく可能性のあるメンバー(この場合は、最高評議会メンバー)に逃げ道を与えること、ここまでの配慮をしない限り、一度抜かれた剣は鞘に収まらないのだと思います。面倒な話ではありますが。

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ルパート・ケッセルリンク「未来の原因としての現在をより大切にすべきでしょうな」(本伝第34話)

総司令官ヤン・ウェンリーの査問中に、留守となったイゼルローン要塞を狙われた自由惑星同盟。無事に撃退はできたものの、査問を持ち掛けてきたフェザーンに対して、当然不信感を募らせていました。 フェザーン駐在の自由惑星同盟高等弁務官ヘンスロー は、 自治領主の首席秘書官ルパート・ケッセル...

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