帝国軍の哨戒部隊との思わぬ遭遇戦に巻き込まれた、自由惑星同盟の新兵訓練部隊。新兵たちを率いるアッテンボロー提督の時間稼ぎ作戦や、ポプラン、コーネフ両隊長率いる艦載機部隊の善戦により持ちこたえていましたが、戦況は徐々に不利になっていきました。
同盟軍は既にイゼルローン要塞に敵軍との遭遇を報告しているため、本隊が到着するまで持ちこたえられれば勝てる状況ではありましたが、戦力差(スキル差も含めて)を考えると、それまでに全滅する可能性がありました。ここで士気が落ちると、総崩れになる、そんな局面だったと言えます。
そんな中、司令官アッテンボローの目前を、同盟軍戦艦ユリシーズが横切ります。ユリシーズは先立つアムリッツァ星域会戦にてトイレに直撃を受け、艦隊内が汚水まみれになりながらも生き残った幸運の戦艦でした。
アッテンボローはユリシーズに着想を得、全艦隊にとても有効な激励をして、士気を鼓舞することに成功します。その時の言葉が、「恰好が悪くてもいい、生き残れよ!」です。
ここでの学びは、まずはストレートな方からいくと、プライドを捨てても生き残ることが優先、ということです。
ユリシーズのアムリッツァ星域会戦でのエピソードは、当時の乗組員からすると悲劇以外の何物でもなかったと思います。生き残れる可能性が非常に薄い戦いの中で、人間生活の最低限のインフラ(トイレですが)が断たれ、しかも異臭の中で長い時間を過ごさなければなりませんでした。しかし、彼らは無事に生き残りました。恰好はとても悪かったとはいえ、玉砕といった自暴自棄な選択をせず、とにかく帰ることを優先した結果です。この姿勢は、負けが濃厚になって、武人の誇りを守るために玉砕を選んで多くの人間を巻き添えにした、帝国軍のゼークト大将やフレーゲル男爵たちと対照的です。
現代のビジネスでも同様の場面が多くあります。負けを認めたり、自身の力のなさを認めたくないがために、望みのないビジネスを辞められなかったり、他人の力を借りれなかったり、無理が祟るまで頑張り続けたり…有能なビジネスマンほど、そういった状況に陥るのではないでしょうか。
しかし、「恰好」というのは、時として必要になることはあるものの、多くのピンチの場面で、不要だと思います。それよりも、生き残ることが大事。生き残れば、ユリシーズのように当時の「格好悪い」エピソードは笑い話や英雄譚になるものだと思います。※ユリシーズはそれだけでなく、後日、イゼルローン軍の総旗艦となります。
そしてもう一つは、具体的なイメージがあるメッセージは強力、という点です。
アッテンボローの激励は、ユリシーズのような強烈なイメージのある存在がなければ、不発に終わった可能性があります。戦況が不利になりつつある中、皆、ネガティブな方に考えが傾きがちですし、そこに根拠のない激が飛んでも好意的には受け取りがたいからです。
ところが、当時の同盟軍の各艦は、アッテンボローにうまく乗せられて、最終的にイゼルローンからの援軍の到着まで持ちこたえることに成功しました。こういった激励がうまくいくためには、タイミング、選ぶ言葉、受け入れ側の納得感、これらががっちり噛み合う必要があると思います。どれかがズレてしまうと、空振りします。アッテンボローはユリシーズのエピソードを用いることで、士気の維持に成功しました。人の気持ちをうまく盛り上げるところが、良将アッテンボローの長所なのでは、と思います。