ヴェスターラントへの貴族連合軍の核攻撃の是非を巡って、銀河帝国のローエングラム侯ラインハルトとキルヒアイスの間に生じた亀裂。これを修復しがたいものにしてしまったのが、ラインハルトの参謀長、オーベルシュタインの一言です。
「組織にナンバー2は必要ありません。部下の忠誠心は代替の効くものであってはならないのです。」
これは、キルヒアイスが事実上ナンバー2になっていること、そしてキルヒアイスがラインハルトに取って代わって支配者になる可能性があることを伝え、ラインハルトに注意を促した言葉でした。本伝を最初から読んだり観ている方には、「キルヒアイスはそんなことしない(なぜならラインハルトの姉アンネローゼの意に反することは絶対にしないから)」と分かっていますが、オーベルシュタインにはその辺りの機微な感情面は理解できず、上記のような正論を踏まえた警告に至ったのだと思います。
ラインハルトはこのオーベルシュタインの言葉に対し、「銀河全体が私に背いても、キルヒアイスは私に味方するだろう」と真っ向から反論しますが、その裏でオーベルシュタインに従い、キルヒアイスの特権を剥ぎ取ることに合意してしまいます。
その結果、悲劇が起こるのです(この話は悲しいので、ここでは触れません)。
ここでの学びは、人間関係の悪化は加速がつく、という点です。
オーベルシュタインのこの言葉は、タイミングがここでなければ、たいした影響のないものだったと思います。彼がナンバー2不要論を唱えていることは周知の事実でしたし、いつものラインハルトであれば、それを言われたところで、「またか」という程度で、たいして気にも留めなかったはずです。このタイミングに至るまで、ラインハルトにとってのキルヒアイスの存在は、オーベルシュタインの正論を十分に凌ぐものだったと思います。
しかし、キルヒアイスとラインハルトとの間に亀裂が生じたこのタイミング、そして関係が悪化に向かって舵を切ってしまったタイミングで、このオーベルシュタインの言葉は効果が有り過ぎました。ラインハルトは言葉の上ではキルヒアイスを擁護しているものの、行動としてはキルヒアイスの特権(集会への銃の帯同や、ラインハルトの傍の位置)をはく奪しました(しかも、キルヒアイス本人に伝えることもなく)。これは、いつもであれば自動的に修復されてきた関係性が、もはや後戻りできないベクトルと加速度で傷口を広げてしまっていることを表しています。
勉学や仕事の世界でこのように最悪のタイミングで最悪な出来事が起きることはしばしば起こるものですが、特に人間関係でこういった事態が起きやすいのでは、と思います。というのも、人間関係を良好に保つには、双方の歩み寄りが必要ですが、人間関係を壊すには片方が縁を切れば十分だからです。以下の表のとおり、あるAさんとBさんがいたとして、4分の3の確率(概念的には)で人間関係の維持は困難となります。円満に関係が維持できるのは、4つのうち1つのパターンのみです。
【表:人間関係の維持は難しい】
また、ここでより重要なのは、ある人からある人への感情は、絶えず同じレベルを維持するのではなく、あるベクトルに向けて増減し、時々加速がつくことです。今回の場合、ラインハルトとキルヒアイスの互いへの関係性は歩み寄りから拒絶の方向に向き、そしてラインハルトのそれはオーベルシュタインのダメ押しによって加速力がついてしまいました。
実際に人間関係が壊れる当人になるのも避けたいところですが、同様にそれを助長する今回のオーベルシュタインのような役回りになるのも、生きていく上で避けるよう、心がけようと思います。
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