2021年9月19日日曜日

オリビエ・ポプラン「お前らひよっこは三機一組で一機を袋叩きにする、それが基本だ」(本伝第27話)

銀河帝国におけるリップシュタット戦役(門閥貴族の叛乱)と、自由惑星同盟におけるクーデターが終息しました。帝国はローエングラム侯ラインハルトを宰相とする専制政治に移行し、同盟はトリューニヒトを国家主席とする政治体制は変わらず、功労者ヤン・ウェンリーがイゼルローン要塞の司令官として防壁の役割を「押し付けられて」いました。

そんな中、哨戒に出ていた帝国軍の小艦隊が、こちらも訓練中だった同盟軍アッテンボローの小艦隊と遭遇し、艦隊戦に突入します。

精鋭揃いの帝国軍に対し、新兵ばかりの同盟軍。戦いの帰趨は、経験の差からすれば明らかでしたが、「ヤン艦隊」という名声が帝国軍の全面攻勢をためらわせていました。

そんな中、艦隊の艦載機(一人乗りドッグファイト用の小型戦闘機。同盟軍ではスパルタニアンと呼ばれる。帝国軍ではワルキューレ)が出撃する場面があります。接近戦になった際に、艦隊では埋めきれない宇宙の隙間を制圧し、近すぎて有効射程外になりがちな艦砲以外の艦船破壊手段を確保するためです(制宙権を確保する、という言い方がなされます)。

この艦載機によるドッグファイトの同盟軍側の天才が、オリビエ・ポプランです。彼はヤン艦隊の第一飛行隊の隊長ですが、これから初めてドッグファイトに挑む新人パイロット達に、次のような貴重な言葉を伝えています。※新人パイロット達の中には、初陣となるユリアン・ミンツ(ヤンの被保護者)も含まれていました。

「俺は空戦の天才だ。しかし、俺のような天才は、帝国軍にはいない。お前たち、運がいいぞ。…お前らひよっこは三機一組で一機を袋叩きにする、それが基本だ。わかったか」。

オリビエ・ポプラン「お前らひよっこは三機一組で一機を袋叩きにする、それが基本だ」(本伝第27話)
『銀河英雄伝説』DVD 本伝第27話 (C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっふ・サントリーより引用

ここでの学びは、教わる側の立場を踏まえて基本を教えてくれる人を大切にする、ということだと思います。

ポプランのこの言葉は、新人パイロット達に様々な意味で希望の光を与えています。彼は、以下のようにいくつもの教えを同時に新人たちに伝えていると思います。

1つ目の教え:敵にポプラン以上の能力の持ち主がいないこと=自分達が教わった世界以上のものは無いということ

2つ目の教え:背伸びして無理をする必要がないということ

3つ目の教え:基本を守れば生き残れる可能性が高いこと、そして、そう伝えることで逸脱行為を戒めていること

それは天才にありがちな、「できない理由が分からない」といった突き放す姿勢ではなく、素人である新人達の側に立った姿勢であり、彼らでも分かる言葉で必要十分な内容を伝えるものでした。

後々ポプランは教師を志すことを口にしますが、実際教える力に富んだ人物だったようです。色々な意味(特に女性関係)で素行は良くなかったですが。

こういった人物を師匠にできれば、その人の仕事人生は半分成功したようなものです。自身の素養と仕事がよほどズレていない限り、気づかないうちに、ある程度のところにまでたどりつけると思います。

問題は、ポプランのような教える側の素養を備えている人間が少ないことです。特に業績を上げている人ほど、「できない理由が分からない」人が多いと思います。教えを乞う先達は、慎重に選ばないといけない、そんなことを考えさせられる一言でした。

ちなみに、帝国軍でも教えるのが上手な人がいます。帝国軍の双璧の一人、ミッターマイヤー提督です。彼の旗下にいる提督達(バイエルライン、ドロイゼン、ジンツァー達)はメキメキと頭角を現し、同盟軍のアッテンボロー達と互角の戦いを繰り広げます。他方で、もう一人の双璧、ロイエンタールは旗下の提督に恵まれなかったこともあるでしょうが、ミッターマイヤーほど伸びた人はいなかったように思います。

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