2021年7月10日土曜日

リッテンハイム侯爵「かまわぬ、撃て」(本伝第22話)

ブラウンシュヴァイク公爵とともに前帝の外戚(妃の父)にあたるリッテンハイム侯爵は、リップシュタット連合の中ではナンバー2の存在でした。しかしながら、トップであるブラウンシュヴァイク公爵とはうまくいっていなかったようで、約50000隻の艦隊を率いて、本拠地ガイエスブルク要塞を後にします。彼の矛先は、ローエングラム侯ラインハルトの命を受けて辺境を制圧したキルヒアイスの艦隊です。

キルヒアイスの艦隊は約40000隻。リッテンハイム侯爵の艦隊はキルヒアイスのそれよりも数では勝っていました。しかし、やはり歴戦の提督と貴族提督では、経験と実力の差は大きすぎました。リッテンハイム侯爵は惨敗し、味方がまだ戦っている最中に逃げ出してしまいます。

ここまでならば、リッテンハイム侯は他の貴族と同等の「戦い慣れていなかったため敗北した」という程度の評価にとどまっていたと思います。しかし、この後が最悪でした。彼は、逃走中のルートに配置していた味方の輸送艦を、事もあろうか攻撃して破壊してしまったのです。彼は、参謀の制止を振り切って、味方を攻撃しました。「味方ならなぜ私が逃げる、いや転進するのを妨げようとするのか。かまわぬ、撃て。撃てと言うに」。

こうして、味方艦の残骸を背に、リッテンハイム侯はガルミッシュ要塞に這う這うの体で逃げ込んだのでした。

リッテンハイム侯爵「かまわぬ、撃て」(本伝第22話)
『銀河英雄伝説』DVD 本伝第22話 (C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっふ・サントリーより引用

ここでの学びは、人生の大事な時期までに失敗は経験しておくべき、です。リッテンハイム侯爵にたいした能力はなかったと思いますが、相手が帝国軍ナンバー2のキルヒアイスですので、当時のリップシュタット連合軍の中でいい勝負ができたのは、総司令官メルカッツとファーレンハイトくらいだったと思います。そんな中で、2割程度多い艦隊で勝てと言うのが、そもそも無理だったと言えます。あるべき姿として、いったん敗北を認め、粛々と軍をまとめてガルミッシュ要塞に籠って再起を待てばよかったのです。

しかし、彼は一度の敗北で、まるで全てを失ったかのような振る舞いをします。戦い続けている味方に背を向け逃げ出しただけでなく、味方を撃って死なせました。これは、門閥貴族として育ったため、失敗をしたことがない、失敗に慣れていない、ということが大きな要因になっていると思います。

人生の中で、多くの人は大事なところで何かしら失敗を経験します。しかし、それは悪いことではなく、それを乗り越えて、より大きな成功につなげる、そういうことができる人間が、本当に強い人間だと思います。そのためには、幼少期や学生時代に失敗に慣れておくことが、とても大切だと思います。失敗慣れしていない人間は、リッテンハイム侯爵のように、大事な時に失敗してしまうと、二度と立ち直れなくなってしまいます。

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