2021年5月22日土曜日

ヤン・ウェンリー「その五分と五分の条件を整えるのが戦略だ」(本伝第19話)

自由惑星同盟でクーデターが発生しました。首謀者は、ドワイト・グリーンヒル大将。元統合参戦本部の総参謀長で、アムリッツァ星域会戦の責任を取り、査閲部長(監査部です)に左遷されていました。ヤン・ウェンリーの副官、フレデリカの父親でもあります。

クーデター自体は、銀河帝国のローエングラム侯ラインハルトにより送り込まれたスパイによるものでしたが、同盟における当事者たちは、皆本気だったようです。それだけ自由惑星同盟の政治体制が腐っていて、それに嫌気がさしている人間が多かった、ということだと思います。

さて、クーデターへの対応方法を熟慮しているヤンに対し、陸戦部隊ローゼンリッターを率いるシェーンコップが、こうささやきます。「クーデターの連中が現体制を一掃した後に、あなたが首都に乗り込んで独裁者をやればいい」。

独裁者なんてやるつもりのないヤンは、「全然柄じゃないね」と一蹴します。しかし、ここで引かないのがシェーンコップの太々しいところ。「軍人だって、そもそもあなたの柄じゃないでしょう」と繋げながら、「五分と五分の条件なら、あなたはローエングラム侯にだって勝てる」と更に煽っていきます。

ここまでくると、普段温厚なヤンも、反応に棘が混じります。曰く「その五分と五分の条件を整えるのが戦略だ」、戦略部分を抜いて優劣を論じても意味がないよ、と。

ヤン・ウェンリー「その五分と五分の条件を整えるのが戦略だ」(本伝第19話)
『銀河英雄伝説』DVD 本伝第19話 (C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっふ・サントリーより引用

シェーンコップは悪い人間ではありません。自分が心酔する(本人は表立ってそんなこと言いませんが、行動にそれが表れていると思います)リーダーに、できるだけ高いところに行ってほしい、という願いが、他のメンバーより強すぎるのかな、と思います。現実は、全く逆の方向に行ってしまいますが。

ここでの学びは、文字通り、戦略重視、という点です。戦場で五分五分になった場合、現場指揮官の指揮能力の違いが結果を左右します。戦場で重視されるのは、戦術です。しかし、戦場で五分五分になることは滅多にありません。少しでも自軍に有利な状態で開戦しようとするのが普通です。この、「少しでも自軍に有利な状態で開戦」するために弄するのが戦略であり、帝国軍のラインハルトがその戦略に長けている点をヤンは高く評価しています。

今回も、帝国軍のラインハルトは、自軍が貴族連合軍(リップシュタット連合軍)と同盟軍の挟み撃ちにされる危険性を回避するため、同盟軍をクーデターで分裂させました。これは貴族連合軍との闘いを五分五分以上に持ち込むための戦略だったと言えます。

ビジネスの世界でも同様のことが言えます。受注した案件の遂行や、その中での一つ一つの打合せをうまくこなすことも大切ですが、それは戦術レベルの話にすぎません。それよりも、案件や打合せの成功確率を前もって上げておく活動、戦略レベルの活動が、ビジネスマンには本来、より求められるのではないか、と思います。すなわち、戦う前から既に勝っている状態をいかに作るか、が重要、ということです。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注目の投稿

ルパート・ケッセルリンク「未来の原因としての現在をより大切にすべきでしょうな」(本伝第34話)

総司令官ヤン・ウェンリーの査問中に、留守となったイゼルローン要塞を狙われた自由惑星同盟。無事に撃退はできたものの、査問を持ち掛けてきたフェザーンに対して、当然不信感を募らせていました。 フェザーン駐在の自由惑星同盟高等弁務官ヘンスロー は、 自治領主の首席秘書官ルパート・ケッセル...

人気の投稿