アムリッツァ星域会戦後、銀河帝国では灰色の皇帝フリードリヒ4世が亡くなりました。ラインハルトは幼年の跡継ぎ皇帝エルウィン・ヨーゼフ2世を擁立した宰相リヒテンラーデ侯と組み、門閥貴族であり前帝の外戚だったブラウンシュヴァイク公およびリッテンハイム侯と激しく対立します。
全面対決の時が近づくに連れ、ラインハルトには自由惑星同盟の動きを牽制しておく必要がありました。門閥貴族を討伐する途上で、帝都を襲われる可能性があるためです。そこで、ラインハルトは捕虜の交換にかこつけて、工作員(元同盟軍少将アーサー・リンチ)を自由惑星同盟に送り込むことにしました。
捕虜交換式は、帝国軍のキルヒアイス提督と同盟軍のヤン・ウェンリー(イゼルローン要塞総司令官に就任しています)の間で行われ、表面上和やかな雰囲気で進みます。しかし、その裏側では、キルヒアイスとヤンの間で、恐らく無意識ではありますが、互いの意図の読み合いと鋭い人物観察が行われていました。その際に発したキルヒアイスの一言が、「形式というのは必要かもしれませんが、バカバカしいことでもありますね」という言葉です。それに対して、ヤンは一言「同感です」と答えています。
このやり取りの中で、キルヒアイスはヤンが帝国軍の意図を読み切っていること、そしてそれにも関わらず捕虜交換に応じたこと、という点に気づいています。他方で、ヤンも帝国軍が捕虜に工作員を紛れさせていることを確信しています。それが捕虜交換式という形式でヴェールに包まれている、ということに対し、お互い共感しているということだと思います。
ここでの学びは、同じ域に達した者同士には、腹の内が自動的に見えてしまう、という点です。そんな漫画みたいなことが現実に起きるのか、と思いがちですが、実際のビジネスの場面でも、同じ域に達していると思考回路が似てきますので、次に打ってくる手を読めたりします。そしてお互いが次の手、次の次の手を読み合いながら、より多くの時間を検討に使えた方が勝つ、ということになりがちです。そのため、どちらか一方が勝ち続けることは少なく、互いに勝ち負けを繰り返す関係になる、それが本当の意味での好敵手(ライバル)なのだと思います。戦争の世界ではそんなことも言ってられませんが。
もう一つの学びは、類は友を呼ぶ、ということです。キルヒアイスとヤン・ウェンリーは、この時お互いの考え方も似ていることに気づいています。(ヤンは後にそれを公言しますし、キルヒアイスも「友にできれば」とラインハルトに語っています)。お互いが同類であるということは、誰かに言われて気づくことではなく、また理屈でもなく、生物的な反応としてお互いに分かるものではないか、と思います。居心地の良さや会話のスムーズさ、また逆説的ですが同じ空間に無言でも耐えられるかどうか、といった点が、それを測るバロメータになります。
ここでの二人の雰囲気はまさにそれで、将来互いが互いのキーマンになることが分かった瞬間なのだろうと思います。もっとも、残念ながら、キルヒアイスが早逝することで、この二人の理想の組み合わせは実現しなかったのですが。
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