自由惑星同盟イゼルローン方面軍司令官ヤン・ウェンリーに対する、査問会という名の精神的拷問は、一度だけでなく不定期に何度も開催されました。その間、ヤンは軍施設に軟禁され、外の世界との関係は絶たれていました。副官のフレデリカがヤンの解放を目指して奮闘していたものの、今のところ有効な打開策が見つからない状況でした。
そんな中、ヤンの心中にある選択肢が浮上します。それは、軍を辞するというものでした。ヤンはもともと軍人になるつもりがなく、実際イゼルローン要塞の攻略に成功した直後にも、辞表を当時の統合作戦本部長シトレ元帥に提出していました。(当時はシトレに言葉巧みにかわされてしまいましたが)。
ヤンが軍を離れてしまうと、困ってしまうのは、実は今現在査問会でヤンをいびっている政治屋達でした。彼らにとって、イゼルローン要塞で銀河帝国軍を食い止めてくれるヤン・ウェンリーの手腕は、自身の政治生命にとって必要不可欠だったのです。そのため、ヤンは軟禁場所で辞表をしたためた時点で、非常に有力な武器を手にしたことになります。ここから、査問会におけるヤンの反撃が始まります。
少し長いですが、査問会の同盟自治大学学長オリベイラとヤンの舌戦を引用したいと思います。
オリベイラ「緊張感を欠く平和と自由は、人間を堕落させるものだ。活力と気力を生むのは戦争であり、戦争こそが文明の発達を加速し、人間の精神的・肉体的向上をもたらすものだ。(中略)それは、君が好きな歴史が証明しているのではないかね」。
ヤン「すばらしいご意見です。戦争で命を落としたり、肉親を失ったりしたことがない人なら、信じたくなるかもしれませんね。まして、戦争を利用して、他人の犠牲の上に自らの利益を築こうとする人々にとっては、非常に魅力的な考え方でしょう。ありもしない祖国愛をあるとみせかけて、他人を欺くような人にとってもね」。
オリベイラ「君は、私たちの祖国愛が偽物だと言うのか!」
ヤン「あなた方が口で言うほど祖国の防衛や精神を必要だとお思いなら、他人にどうしろこうしろと命令する前に、自分たちで実行なさったらどうですか?人間の行為の中で何が最も卑劣で恥知らずか、それは権力をもった人間や権力に媚びを売る人間が安全な場所に隠れて戦争を賛美し、他人には愛国心や犠牲精神を強制して戦場へ送り出すことです」。
そして、ヤンは次の一言で彼らにとどめを刺すのでした。
「宇宙を平和にするためには、帝国との無益な戦争を続けるより先に、まずその種の寄生虫を排除することから始めるべきではないでしょうか」。
ここで学んだのは、「人間には大きく2種類いる」、ということでした。すなわち、戦争に人を駆り立てるタイプの人間と、戦争に行くタイプの人間です。
ここでの題材は戦争ですので、なかなか我々には実感が沸かないかもしれませんが、ビジネスや学業の日常で考えても、やはり同様の分類があると思います。つまり、人に実行を押し付けるタイプの人間と、実行を押し付けられるタイプの人間がいるということです。
この2タイプ、一度カテゴライズされると、なかなか抜けられないものだと思います。人に押し付けるタイプの人間は、一度それがうまくいくと、もはや自分でやろうという気にならないと思います。旨味を知ってしまいますので。他方で、人に押し付けられる人間は、押し付けるタイプ人間に目を付けられ、容易に逃れることのできない状況に陥りがちです。ここでのヤンの立場がまさにそうです。
人に押し付けるタイプの人間には処方箋はありませんが、押し付けられる人間にとって有益な打開策が2つあります。一つ目は、人に押し付けるタイプの人間に近寄らないことです。
そして、もう一つの打開策が、「選択肢、すなわち逆転の武器をもつこと」、という次の学びです。ヤンの思い切った発言は、辞表を書くと決めた後のことです。査問会におけるそれまでの彼の言動は、どちらかというと守勢に回り、相手の出方を見つつも、自身やイゼルローン要塞の皆を守ることを優先していたと思います。しかし、辞表を書いてそれを出すタイミングを図りだしてからは、攻勢に回ることができています。軍の残るという選択肢のみを想定していては、できなかった攻守転換だったはずです。
押し付ける人間に目をつけられてしまった人は、ビジネスの場でも学校でも、その場にただ留まることを唯一の選択肢にするのではなく、いくつか選択肢を持つことで現状打開の糸口が見えてきます。たいていの場合、押し付けられる人間は、押し付ける人間よりも経験が豊富になるため、有能になると思います。そのため、彼らがいなくなると、その場が回りません。その状況を逆手に取り、いつでも離脱できる選択肢をチラつかせながら、事に当たることで、不当な扱いをある程度は避けられると思います。
0 件のコメント:
コメントを投稿