ブラウンシュヴァイク公爵によるヴェスターラントへの核攻撃は、自身が率いるリップシュタット連合軍を更に追い込んでいきます。ほぼ全ての植民星が離反し、ガイエスブルク要塞は完全に孤立してしまいます。敗北必至の現実から逃避すべく、大貴族達は連日無意味な宴会に身を投じていました。
そして、本来は持久戦に持ち込んで遠路遥々遠征に来ているローエングラム侯ラインハルトの軍の疲弊を待つべきところ、ヒロイックな美学に取りつかれたフレーゲル男爵以下現実感覚のない貴族達は、総大将のブラウンシュヴァイク公爵をも巻き込んで、華々しい玉砕をするために出撃していったのでした。
この出撃に巻き込まれた損な役回りが、前述のメルカッツ提督とシュナイダー少佐の主従コンビと、フレーゲル男爵の副官シューマッハ大佐です。
シューマッハ大佐は後方勤務がメインでしたが、貴族最優先の帝国軍の中で、平民でありながら着実に出世していった非常に有能な参謀でした。また、非常に忍耐強く、上官の無茶な命令にも黙々と従う、そんなタイプだったと思います。その彼が、上官たるフレーゲル男爵が「滅びの美学」を完成させるため、帝国軍の宿将達に戦艦の一騎打ちをしかけようと騒ぎ出した際に、堪忍袋の緒が切れて言い放ったのが、この言葉でした。
「滅びの美学ですって!そういう寝言を言っているから戦に負けるのです!もう沢山です!やりたかったら一人でおやりなさい!」
このように自身を否定する言葉を、生まれて初めて浴びせられ、フレーゲル男爵は一瞬動きが止まります。そして、時間差でこみ上げる怒りと共にブラスターを取り出そうとした刹那、フレーゲルは自分の部下達に一斉に狙撃され、命を落としました。恐らく、このやり取りを周りで見ていた部下達は、シューマッハの言葉を心の底から待っていたのだと思います。
ここでの学びは、きっかけ一つで周囲の行動が変わる、という点です。
この時点まで、貴族に平民がたてつくことは、常識としてあり得ない世界だったと思います。そのため、フレーゲルはシューマッハの言葉を瞬時には理解できませんでした。(そして、その時間がフレーゲルを死なせ、シューマッハを生き延びらせるのに必要な時間でした)。
しかし、リップシュタット連合軍の度重なる敗退、ヴェスターラントの虐殺、帝国全土における反貴族の趨勢、そういった時代の変化は、リップシュタット連合軍側の兵士達にもひしひしと感じられたと思います。そこに投げかけられた、フレーゲル男爵という大貴族の権化へのシューマッハの言葉が、フレーゲルを撃った部下達の行動を促すトリガーになりました。
このように、流れが出来上がりつつある中で、きっかけ一つで潮目が変わることは、現代社会の中でも少なくないと思います。ビジネスでも、ある一言がきっかけで、協力者が増えるということがあります。気が付いたら流れが自分に向いていて、無意識に発した言葉が相手のスイートスポットに刺さっていることもあります。
ここで注意すべきは、シューマッハという人が、言動一致せず周囲の信頼のない人物だったら、部下達は彼を救わなかったであろうということです。常に行動が伴う人による言葉であることが、周囲の行動を変えるトリガーとしては重要なファクターではないか、と思います。
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