自由惑星同盟でクーデターが収束しようとしている頃、銀河帝国内でも皇帝を擁立するローエングラム侯爵ラインハルトとブラウンシュヴァイク公爵率いるリップシュタット連合軍の戦いが苛烈を極めていました。
そんな中、戦略上それほど重要ではないシャンタウ星域の防衛に当たっていたのが、ヘテロクロミア(両目で色が異なる)のロイエンタール提督です。ロイエンタールは後に疾風ミッターマイヤー提督と共に「帝国の双璧」と呼ばれるようになりますが、この時点ではキルヒアイス、ミッターマイヤーに続く3番手、というくらいの位置づけでした。
そして、ロイエンタールが対峙していたのが、リップシュタット連合軍の総司令官、メルカッツ提督でした。メルカッツ提督の老練な手腕に、劣勢気味になるロイエンタール。ここで、彼は思い切った決断をします。
「ここは撤退だ。シャンタウ星域は死守するほどの価値はない。奪還するのはローエングラム侯にやってもらおう」。
リップシュタット連合軍のメルカッツ提督としては、消耗戦に持ち込んでもう少し戦力を削いでおきたいところでしたが、ロイエンタールは大きな火傷をする前にさっさと撤退してしまいました。このあたりの判断の鋭さが、以後の大きな飛躍の源泉になるのだと思います。
ここでの学びは、退き時を知る、ということだと思います。
当時のロイエンタールは、ミッターマイヤーほど派手ではないにせよ、既に提督として超優秀で、メルカッツとの戦いであっても艦隊戦を続けることは可能だったと思います。副官のレッケンドルフも進言していますが、ここで形だけとは言え負けてしまうと、全体の士気にも関わります。また、純粋な軍人であれば、負けること自体を嫌がるものです。
しかし、彼は全くこだわらず、あっさりと退却しました。それは、自身がメルカッツに対して(能力というより)経験で劣り消耗戦は不利であること、そしてシャンタウ星域には固執するほど戦略的価値がないこと、これらを冷静に判断したからだと思います。己を知り、敵を知り、環境を知れば、躊躇わずに退くことができる。逆に、それらが一つでも欠けると、なかなか退けず、事態が泥沼化していくものだと思います。
そんなロイエンタールの判断は、ラインハルトの頭脳をくすぐります。退却の報を聞いたラインハルトは、「ロイエンタールめ、私に宿題を残したな」と部下の判断を尊重しています。(ロイエンタール以外が同じことをしたら、多分怒っていたのでは、と思いますが)。そして、ラインハルトはこのシャンタウ星域の放棄を、敵本拠地ガイエスブルグ要塞攻略の一つのピースとして活用するのでした。
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